東海大九州が感じた「野球ができる喜び」 熊本地震を乗り越え到達した全国の舞台

松倉雄太

東海大九州は1回戦で涙をのんだが秋の必勝を誓った 【写真は共同】

■全日本大学野球選手権1回戦

天理大 8−5 東海大九州

天:410 010 020=8
東:100 001 300=5
(天)中川、桜木−石原
(東)牛丸、國廣、亀川、小川−伴
【本塁打】山本(天)

初回の4失点が響いた東海大九州

「野球ができることの喜びが強い。楽しくてしょうがなかった。たくさんのOBや関係者の方が応援にかけつけてくれた。勝ちたかったが、相手の力が上でした」

 熊本地震からまもなく1年2カ月。東海大九州の南部正信監督は感慨深そうに話した。
 初回、先発の牛丸将希(4年/玉名高)が天理大の5番・山本柊作(4年/天理高)に満塁本塁打を浴びる。2回にも1点を失い、3回途中で降板。不本意な投球だったが、國廣涼太(4年/北筑高)、亀川裕生(4年/東福岡高)、小川一平(2年/横須賀工業高)のリリーフ陣がゲームを立て直した。

 2対6で迎えた7回。小川が無死3塁のピンチを踏ん張ると、その裏の攻撃で、1番・田浦靖之(3年/島原農業高)の2点タイムリーなどで1点差まで追い上げた。「ウチに運が向いていた」と南部監督は話すが、三塁側の東海大九州のスタンドが一番盛り上がった瞬間だった。

 しかし直後の8回に2点を失う。再び天理大に傾いた流れを取り戻すことはできなかった。「初回を除けば良いゲームだったと思います」と南部監督は振り返った。

静かな環境が一転…

 南阿蘇村の阿蘇キャンパスにグラウンドと寮がある東海大九州。「阿蘇の環境は飛びぬけて良い所。静かですし、散歩に行くだけで周りがきれいでゆったりとした気持ちになる」と農学部に所属する田浦は話す。

 だが、昨年4月に2度の大きな地震が発生。捕手の伴善弘(3年/横浜隼人高)は「1日というより、あの1時間で全てが変わった」と振り返る。主務の西久保信也マネージャー(4年/飯塚高)も「(前震だった)地震のあった夜は外で寝ました。その後1日経ったので、もう大丈夫かなと思って安心していたらもう一度揺れた。雷が横に落ちたような感じで、何が起きているかわからなかった」と不安だった気持ちを話してくれた。

 大きな被害を受けた寮は取り壊しが決まり、グラウンドも使用できなくなった。チームは大学選手権へとつながる春のリーグ戦を辞退し、選手は一度それぞれの地元に戻った。神奈川県出身の伴は、「これからの大学生活をどうしていこうかというのはもちろん考えました。親にも『帰ってきてもいい』と言われたこともあります。でも仲間もみんな待ってくれている。辞める気はなく、絶対に頑張ってやってやるという気持ちになりました」。

 選手が熊本に戻ってくると、南部監督はグラウンドと生活場所を探しに奔走。熊本キャンパス内のソフトボール場を借りるなど日によって転々としながら練習を再開。高校生が使用していた寮をきれいにして使わせてもらった。「もう多分、野球ができないだろうと私達は思っていた」(西久保主務)という状況から、徐々に野球ができる環境を作り始めた。

「道具やユニホームなど色んな高校に支援していただきました」と西久保マネージャーは感謝する。人と人とのつながりを感じた。

「グラウンドと寮に報告したい」

 秋にようやくリーグ戦を戦えるようになった。この春、昨年リーグ戦を辞退した当時の4年生の思いも背負っての大学選手権出場。西久保マネージャーは昨年の主務だった山田廉さんから祝福された。

「最初におめでとうと言っていただきました。私が主務を始めて半年なんですが、それまでチームを作ってきてくれたのは山田さん。私が行っていいのかなという気持ちはありましたが、山田さんが作ってくれたチームを踏襲していこうとやってきました」と思いを語った。

 特別な思いで戦った大学選手権。残念ながら勝利は果たせなかった。「熊本に戻って、(阿蘇の)グラウンドと寮に報告したいと思っている」と話した南部監督。グラウンドは使用OKになった時に備えて、整備や草むしりなどメンテナンスは定期的にしているそうだ。

「秋にもう一度全国に来て、今度は勝ちたい」と決意を新たにした選手たち。明治神宮大会に必ず勝ちにくるつもりだ。
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著者プロフィール

 1980年12月5日生まれ。小学校時代はリトルリーグでプレーしていたが、中学時代からは野球観戦に没頭。極端な言い方をすれば、野球を観戦するためならば、どこへでも行ってしまう。2004年からスポーツライターとなり、野球雑誌『ホームラン』などに寄稿している。また、2005年からはABCテレビ『速報甲子園への道』のリサーチャーとしても活動中。

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