メジャーも注目!無名の剛腕が全国へ〜岡山商科大・近藤弘樹の軌跡〜

高木遊

リーグ戦に日米7球団のスカウト

6月の全日本大学選手権に出場する近藤は初の全国の舞台で「目立ちたい」と闘志を燃やす 【写真:高木遊】

 そして今春、近藤が牽引する岡山商科大は快進撃を見せる。

 開幕週の吉備国際大戦で近藤は1回戦を2失点完投、3回戦を完封で勝ち点をもたらすと、続く環太平洋大戦でも1回戦で完封、2回戦は抑えに回り無失点で締めた。さらに東亜大戦では1回戦で11回1失点完投、3回戦では4失点を喫しながらも粘って投げきり、チームの逆転勝ちを呼び込んだ。
 
 こうして獅子奮迅の働きで勝ち星を積み上げる近藤の投球を観るため、5月6日のリーグ戦へ足を運んだ。会場は山口県のオーヴィジョンスタジアム下関。相手は数シーズンにわたって相性の悪い徳山大だ。ゴールデンウィークの喧騒とは無縁なのどかなスタジアムではあるが、バックネット裏には日米7球団15人のスカウトが集まった。
 
 初回、先頭打者140キロ台中盤のストレートで追い込んだ近藤だったが、決め球に選択したチェンジアップを、ちょこんとすくわれライト前安打を許す。その後149キロのストレートで見逃し三振を奪うなど2アウトを取るも、相手4番打者に2ボールからの146キロのストレートをレフト前に運ばれて先制点を許した。そして、この1点が命取りとなり、チームは0対1で敗戦。近藤は7安打1四球7奪三振1失点の内容だったが報われなかった。

スカウト、ライバル監督も高評価

 プロのスカウトたちは、どのように今の近藤を評価しているのか。

「悪いなりに投げられるようになりました。ストレートが走っていない日でも変化球でかわせるようになったのは成長でしょう」(中日・音重鎮スカウト)

「今季はストレートで空振りを取れるようになりました。体格もありますし楽しみな投手です」(ソフトバンク・福元淳史スカウト)
 
 そう両スカウトとも近藤の成長を評価する。また、これまで何度も対戦を重ねてきた環太平洋大・野村昭彦監督は「これまでと比べて、力んで崩れてしまうことがない。(心が)水面のように波風がないですね。粘りも出てきました」と評した。

「全国大会で目立ちたい」と闘志

 もちろん、まだ課題も多い。この日のストレートは球速の割にバットに当てられることも多く、変化球のキレも発展途上な印象を受けた。アストロズ・大慈彌功スカウトは「強く投げようとする意識の中で体の軸が後ろに傾いてしまっています。そのため体重移動が上手くいかずに体が開き、球のスピン・キレがなくなってしまっています」と指摘した。

 近藤も試合後「左足に体重が乗らず開きが早くなってしましました」と試合のない週にバランスが崩れてしまったことを反省していた。一方で赤木監督は「ストレートの走りがダメならダメで、上手く軟投に切り替えていました」と悪いなりの投球を収穫としていた。

 その修正能力を実証するように、その後の徳山大との3回戦(7回参考記録ながら完全試合)、福山大との1回戦では再び完投勝利を挙げ、チームを優勝に導いた。

「全国大会に行って目立ちたい」と話していた近藤。幼い頃からの憧れという黒田博樹氏(元広島)のような圧倒的存在感を初めての全国舞台で見せることができるのか。注目のデビュー戦は6月5日の神宮球場第2試合、相手は関西学生野球の名門・近畿大だ。

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著者プロフィール

1988年、東京都生まれ。幼い頃よりスポーツ観戦に勤しみ、東洋大学社会学部卒業後、スポーツライターとして活動を開始。関東を中心に全国各地の大学野球を精力的に取材。中学、高校、社会人などアマチュア野球全般やラグビーなども取材領域とする。

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