オリックス・金子千尋、エースの本懐 「僕が投げる日は負けたくない」

ベースボール・タイムズ

あくまでもチームの勝利が最優先

オリックスの好スタートに大きく貢献しているエース・金子 【写真は共同】

「僕が投げる日は負けたくない」

 これは、オリックス・バファローズのエースである金子千尋の、譲れないスタンスである。そして「いくら僕の投球内容が良かったとしても、チームが勝てなければ意味がないですから」と続ける。チームの勝利こそが第一であり、自己の成績は二の次。チームをけん引しようという意欲は、まさにエースのそれである。

 ひじの故障もあって、ここ2シーズンはいずれも7勝止まり。昨季は自身初の負け越し(7勝9敗)を経験し、「悔しい思いしかなかった」と本人は言う。それだけに今季にかける彼の意気込みは並ではない。ならば、選考委員の満場一致で沢村賞を受賞した2014年の成績(16勝5敗、防御率1.98)を再び! と、周囲は期待を寄せるが、金子の口から景気の良い言葉は出てこない。

「もちろん数字が良いことに越したことはないのですが、なにもそこ(タイトル)を目指しているわけではないですからね。狙って取れるものでもないですし……。あくまでも、チームの勝利が最優先です」

 そう言い切るエースが今季、開幕6試合で5勝0敗、防御率1.60(5月8日現在)という素晴らしいスタートを切った。

最良の準備を生み出す独特の感性

 宮崎での春季キャンプの第1クール3日目。報道陣が競ってメイングラウンドに隣接するブルペンを目指した。背番号19が、キャッチャーを座らせて今年初のピッチングを行ったからだ。当初、発表されていた練習メニューにエースのブルペンセッションの予定は記されていない。急にざわめいた周囲とは対照的に、今季の“初投げ”を淡々とこなす金子の姿が印象的だった。

「皆さんは、第1クールで僕が投げたことで騒がれていましたが、前の年よりも数日早かっただけで、僕からすれば調整のスピードに特別な意図はなかったわけで……」

 エースの流儀は、時として周囲の理解の範囲を超えている。そう、そんな“金子流”こそが、われわれの想像をはるかにしのぐパフォーマンスを生み出しているのではないだろうか。

 そんな彼の調整方法は独特である。先発間の調整でブルペンに入らない時もあれば、オープン戦に一度も投げないまま本番を迎えたシーズンもあった。それらは、いずれもその時々のコンディションに合わせたものを、彼なりの流儀で取り入れているからだという。

「僕の場合、故障もしました。手術も受けています。その前後では、自分の体の状態が同じってことはまずあり得ない。それに毎年、歳も重ねてゆくわけですから、コンディションなんて常に変化しているはずですよね。だから、ずっと同じ調整法にはならない。気持ちを高めるルーティンはあっても、調整のやり方は変わって当たり前だと思っています。だから、キャンプでのブルペン入りが、少々早かろうが遅かろうが問題じゃないんです」

 故障も癒えて、34歳という年齢が示す体の状態をしっかりと管理する中で、彼は今季に向けて最良の準備を行ってきた。それが無傷の5連勝というスタートダッシュにつながったともいえそうだ。

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著者プロフィール

プロ野球の”いま”を伝える野球専門誌。年4回『季刊ベースボール・タイムズ』を発行し、現在は『vol.41 2019冬号』が絶賛発売中。毎年2月に増刊号として発行される選手名鑑『プロ野球プレイヤーズファイル』も好評。今年もさらにスケールアップした内容で発行を予定している。

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