イチロー3000安打セレモニーの裏側 功績は手渡しサイズに収まらず

丹羽政善

発端はコーラーらのアイデア

全3000安打の写真を集めた記念品を贈られたイチロー 【写真は共同】

 昨年のシーズンが始まった頃だったという。

 マーリンズのオーナーであるジェフ・ロリア氏が、元継子のデビッド・サムソン球団社長に、「イチローが大リーグ通算3000安打を達成したときの記念品について、何か考えているか?」と尋ねた。

 記念品のことは頭にあったものの、具体案があるわけではなかったサムソン社長に対して、ロリア氏はこんな指示をしたという。

「クリエイティブで、今までとは全く違うもので、マイアミらしいテイストがあると良い」

 その時、サムソン社長は、「ありがちな車やバイク、ブロンズのバットではダメ」と解釈。かといって名案はなく、選手会長でもあるトム・コーラーらに相談した。

「なにか特別で、一生残るようなものはないだろうか」

 その時、コーラーらがこんなアイデアを出したそうだ。

「イチローが打ったすべてのヒットの写真を集めて、それを1枚のパネルにコラージュしたらどうだろう」

 コーラーは、「全部の写真が集まるのかどうかわからなかった」と言うものの、サムソン社長も似たような考えを持っていたらしく、「じゃあ、それでやってみるか」と方向性が決まった。

 それから、日本の共同通信、莫大な写真データベースを持つゲッティ・イメージズ、マリナーズ、ヤンキースに連絡をとって、3000安打分を集めるという気の遠くなる作業がスタート。それをさらにパズルのように並べていくと、縦約1.2メートル、横約2.6メートルという巨大なものになった。イチローの功績は、手渡しできるほどのサイズには到底収まらなかった。

イチローも感嘆「アートだね」

 4月30日(現地時間)に行われたセレモニーではまず、オリックス時代のヒットも含めたハイライト映像がセンターの大型スクリーンで流れた。

 それから記念品の除幕式。サムソン社長から説明を受けるイチローは、その手の込みように感嘆した。

「アートだね」

 サムソン社長によると前日、イチローは記念品について、「何ですか?」と知りたがったそう。「明日になればわかる」とは伝えたが、イチローはといえば、こう聞いていたと試合後に振り返った。

「何かでかいもので、(ジャスティン・)ボアよりも重いもの(笑)」

 チームメートで体重120キロのボアに対して、パネルは約45キロなので、半分は合っていて半分は間違っていることになるが、想像を超えていたことは間違いない。

 サムソン社長はセレモニーの後、「将来、写真を見ながら、『これが474本目のヒットなんだ』って、言うのかな」と笑ったが、コーラーはこう話した。

「“ICHI−MEMORY”に飾ってほしい」

 エイミー・フランツさんでおなじみの“ICHI−METER”に掛けたか。

 セレモニーではその後、福岡ソフトバンクの王貞治会長のメッセージがスクリーンに流れ、イチローはそれを神妙な面持ちで見入った。

「イチロー君、メジャーリーグでの3000本安打おめでとう。日本人として大いに誇りに思っています。好きな野球、もっともっとやって1本でも多くヒットを打ってください」

 その言葉に対して、イチローは深々と頭を下げている。王会長の一つ一つの言葉に胸を揺さぶられていた。

 イチローは、「いやもう、王監督の姿を拝見できると思ってなかったから、あれが一番、驚きましたね」と話し、こう続けている。

「王監督は優しい。優しいというか、厳しい方ですけど、すごくこう、温かみがある。それがにじみ出ている。あれは感激しますよ」

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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