3Pシュートは1.5倍の価値がある!? アナリスト視点でBリーグを見よう(2)

佐々木クリス

効果的なシューターの存在

千葉の石井は3Pシュートの効率性が非常に高く、チームの躍進に大きく貢献している 【素材提供:(C)B.LEAGUE】

 ここまでの説明を聞くと、「3Pシュートしか打つ必要ないじゃん!?」となりますよね。場合によってはそれも間違いではないかもしれません。そのくらい3Pには威力があるということです。

 NBAにはヒューストン・ロケッツという1試合に40本以上の3Pシュートを放つチームがあります。実に全FGの46%を占めており、3Pシュートの成功数や試投数などのNBA記録を2016−17シーズンに軒並み更新しました。

 これはスタイルや戦術面での信念、そして成功率の高い選手がそろっているかどうかにも大きく左右されます。先ほどのSR渋谷ではありませんが、20%の確率でしか決められない選手が延々と3Pシュートを放っていては勝つ見込みがありませんし、60%で決まる2Pシュートを1試合中に量産できるチームは、3Pシュートを多用せずとも試合を支配できるのは間違いありません。

 1試合平均27.5点とリーグ戦得点王への道をひた走る川崎のニック・ファジーカス。彼について、対戦相手となった選手が「ニックが打ったら落ちるのを祈るしかない」というコメントを残したことがあります。彼のFG成功率は54.7%、3Pも41.6%で、eFG%に換算すると57.63%と、もはや彼にとって質の悪いシュートはないと言えるレベルになっています。対戦相手の感覚は正しかったということです。

 日本人トップとなる17.4もの平均得点をたたき出す三河の金丸晃輔も、シーズンを通じて3Pシュートを98本、42.2%で成功させています。FGでは45%となっていますが、eFG%は52.1%と素晴らしい数字です。

 しかし、そんなリーグ筆頭のスコアラー2人を超える効率性を有する選手が千葉の石井講祐で、eFG%が60.35%という数字(50試合以上出場し、全FG数も396本と十分なサンプル数)を記録しています。3Pシュートはシーズンで104本成功、42.1%で決めているシューターです。当然エーススコアラーの役割を担う選手と3Pシュート、2Pシュートの比重が違いますが、決定力、シュートセレクション共に申し分なくチームの躍進に貢献しています。

ピック&ロールと3Pの相関関係

 現代のバスケットボールにおいて3Pシュートの重要性が再認識されているのは、単に1.5倍の得点が入るからだけではありません。実は石井のような効率の良いシューターがもたらす、見落とされがちな効果があります。それは特定のスコアラーに対してダブルチームを送る、またはピック&ロールに代表されるボールスクリーンという攻撃のアクションに対応しようとするディフェンスに「代償」を払わせることです。

 バスケットボール選手はリングを守りなさいと教えられています。そんな中、ドリブルをする選手のマークマンがスクリーンをかけられると、そのまま中央突破でレイアップを許してしまう。これを止めようとスクリーナーのディフェンスが安易にボールを止めにいけば、狭いエリアながら攻撃選手2人、守備1人の数的優位を突かれて今度はダンクなどを許してしまいます。

 ピック&ロールで生じる数的優位、この数的優位という言葉は一瞬にして守備側が攻撃に転じた際に速攻での2対1、3対2などがバスケ経験者には最もなじみがある表現だと思います。そんな攻撃の効率が一気に高まる状況をハーフコートでも作ることこそ、ボールスクリーンの神髄と考えられます。

 かみ砕くと、プロレベルの得点力を有するせめぎ合いの中、ピック&ロールなどを守備側2人で完璧に守るのはほぼ不可能と考えていいということです(スイッチやアンダーという対応策もありますが割愛します)。

 守備側にもヘルプやローテーションと呼ばれるさまざまな対策が存在しますが、もし攻撃側にシュート力がなかった場合、インサイドに人数をかけた守備側は「相手の侵入は阻止した。最も恐ろしい攻撃は回避したから脇役のシュートは捨てておけ」と考えます。万が一シューターとして知られていない選手が1本決めたところで、精神的なダメージも少ないでしょう。

 だからこそ、自分たちの最も効果的な攻撃に人数をかけて守ってくる守備には代償を払わせなければなりません。PF(パワーフォワード)を含めた多くの選手に3Pシュートの成功率が高い選手がそろっていれば、守備に迷いが生じます。「レイアップやダンクはされたくない。でも中に集まると3Pラインの外にパスを出されてノーマークを難なく決められてしまう」と考えるからです。

 3Pシュートを安定して決めることができる、つまりそれは2Pシュートの成功率をさらに高めてくれる潤滑剤でもあります。そして、一見2対2のプレーに見えるピック&ロールなどのボールスクリーンも、実は激しい5対5のせめぎ合いであることが分かります。

 フルコートのように広いスペースではなく、限られたハーフコートの中で5人が連係して作り出す数的優位の最大効果を発揮するためには、ディフェンス網を最大限広げるしかありません。固まっていても守備が2人のオフェンスを1人で守れてしまうからです。このスペースを生み出すことこそ、3Pシュートには1.5倍の価値があるという脅威につながっているのです。

安定的な3Pシュートの先にある相乗効果

 このような発想から近年のバスケット界は3Pシュートの価値にあらためて気付き、世界的に3Pシュートが増えています。これはピック&ロールが攻撃の主軸であることとも相関関係にあると言えそうです。

 事実、先ほどもご紹介したNBAのロケッツ、そして希代のシューター2人(ステフィン・カリー、クレイ・トンプソン)を擁し、さらにケビン・デュラントも加えて時代を席巻するゴールデンステイト・ウォリアーズ。この2チームは3Pシュートを量産します。しかしながら、ペイント内での得点もここ3シーズン続けてトップ10入りしており、ここからも3Pシュートの持っている期待値の高さ、スペースを生み出す力の最大化に成功していることが分かります。

 さらに、NBA過去4年の優勝チームは必ず3Pシュートの投数もしくは成功率でリーグトップ3に入っており、その“脅威”を活用しているのです。

 攻撃に効果的に3Pシュートを組み込み、チームの相乗効果を図ることでBリーグのクラブも3Pシュートの価値を1.5倍どころか3倍や4倍にもできるはずです。みなさんが応援するクラブの攻撃力を示す新たな指標、eFG%にもぜひ注目してみてください。

(データ提供:B.LEAGUE、グラフィックデザイン:相河俊介)

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