JFL初勝利で見えたFC今治の新たな課題 敵将が語る「的を絞りやすい」の真意とは

宇都宮徹壱

いまだ未勝利、3試合ゴールのない今治

柏の葉で開催されたブリオベッカ浦安vs.FC今治。どちらも天皇杯出場を決めたばかりだ 【宇都宮徹壱】

 3月5日に開幕したJFLは、2週間の中断期間を挟んで4月16日にファーストステージ第5節が行われた。この間、天皇杯の都道府県代表決定戦があり、FC今治は決勝で松山大学に7−0で圧勝。晴れて愛媛県代表となり、9年連続9回目の出場を果たした。結果もさることながら、久々のゴールラッシュに今治の関係者は一様に胸をなでおろしたのではないだろうか。

 というのも、開幕戦となる流経大ドラゴンズ龍ヶ崎とのアウェー戦に引き分けて以降(2−2)、今治はリーグ戦においてずっとゴールの歓喜を味わうことなく今に至っているからだ。第2節のHonda FC戦(ホーム)と第3節のヴェルスパ大分戦(アウェー)は、いずれもスコアレスドロー。そして前節のラインメール青森戦(ホーム)には0−1と今季初黒星を喫してしまった。結果、第4節終了時点で0勝3分け1敗の勝ち点3で、16チーム中13位。昨シーズンの2位(ドラゴンズ)と1位(Honda FC)に引き分けたことで、「JFLも何とかいけるのではないか」と思われたが、やはり全国リーグは甘くはなかった。

 ここであらためて、JFLからJ3に昇格する条件をおさらいしておこう。クリアすべき条件は大きく3つ。すなわち(1)JFL総合順位で4位以内、(2)J3ライセンスを持っていること、(3)ホームゲームの1試合平均入場者数2000人など(他にも条件があるがここでは割愛)。注意したいのは(1)。JFLでは2ステージ制を採用しており、ファーストかセカンド、いずれかでステージ優勝すれば、その時点で2位以内を確保できる。つまり4位以内を確保するには、まず2ステージのどちらかで優勝するか、それがかなわなくても地道に勝ち点を積み重ねて4位以内を目指すという、3つのチャンスがある。

 各地域リーグで優勝しても地域CL(全国地域サッカーチャンピオンズリーグ)に敗れれば夢を絶たれてしまう、JFLへの昇格レギュレーションの厳しさを考えるなら、J3昇格の条件はかなり緩いように感じられる。スタートダッシュに失敗した今治も、その点では特に不安を感じていないはずで、前半戦での反省点を踏まえながら、夏の補強を考えていることだろう。とはいえ、これほどゴールに見放されているのは、やはり看過できない問題だし、ファーストステージ優勝が厳しくても、今のうちから勝ち点を積み重ねておく必要がある。そのためには、そろそろJFLでの初勝利を期待したいところだ。

浦安市内でJFLが開催できない理由

浦安の齋藤監督(左)と都並TD。ふたりは読売のジュニアユース時代からの親友 【宇都宮徹壱】

 今治は今節、アウェーで11位のブリオベッカ浦安と対戦することになっていた。会場は千葉県の柏の葉公園総合運動場。昨シーズン、関東リーグから昇格した浦安は、秋津総合運動公園やフクダ電子アリーナでも試合を行うが、ほとんどのホームゲームは柏の葉で開催される。ホームタウンの浦安からだと、電車とバスを乗り継いで1時間ほどかかる。なぜ、これほど遠い場所でホームゲームを行わなければならないのか。それは、浦安というクラブの成り立ちにも起因している。

 浦安の前身は、1989年に設立された浦安JSC(ジュニア・サッカークラブ)。その名が示すとおり、もともとは地元の保護者が運営する少年団がルーツである。やがて、子供たちの成長に合わせて受け皿となるジュニアユースやユースのチームが作られ、2000年にはトップチームを設立。千葉県3部からのスタートだったが、15年の地域リーグ決勝大会を2位で突破し、とうとうアマチュア最高峰のJFLにまで到達した。ちなみに現在トップチームを率いる齋藤芳行監督は、浦安JSC時代から子供たちを指導しており、元日本代表の都並敏史氏もクラブの方針に強く共鳴してTD(テクニカル・ディレクター)を務めている。

 私はこれまで、さまざまな「上を目指すクラブ」を取材してきたが、浦安はある意味「最も健全なケース」と言えるだろう。「●年後にはJリーグ入り」と宣言し、無理なチーム強化をした揚げ句に地域決勝の突破に失敗して立ち行かなくなる、という事例はこれまでに何度となく目にしている。これに対して浦安の「昇格」は、目的ではなくあくまで努力の結果であり、それこそが本来のあるべき姿であろう。ただし、ここで大きなハードルとなるのがスタジアム。浦安が関東1部時代に使用していた浦安市運動公園陸上競技場は、収容人数が2500人程度な上にピッチは人工芝。よって彼らは、ホームタウンから離れた場所でのホームゲーム開催を余儀なくされることとなった。

 ちなみに、浦安でホームゲームを行っていた15年の平均入場者数は、ゆうに1000人を超えていたという。しかし昨年は481人にまでに激減。やはり発祥の地を離れた代償は小さくなかった。しかし、一方で明るい兆しもある。このほど行われた選挙で当選した新しい浦安市長は、クラブの活動に深い理解を示していると聞く。もしも将来的に、人工芝から天然芝への張り替えが実現すれば、浦安市内でのJFL開催も可能となるだろう。個人的には、ぜひ実現してほしいと願う次第だ。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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