ファンディーナ「力負け」沈んだ皐月7着 池江師の発想超えた!アルアイン混戦に断

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平成生まれのGIジョッキー、待望の誕生

 牝馬には負けられぬ、とばかりに意地を見せた牡馬勢で先頭のゴールを駆け抜けたのは、松山弘平が駆る9番人気のアルアイン。牝馬に最先着を許さなかったとはいえ、それでも上位人気通りに決まらなかったところに、やはり2017年牡馬クラシック路線の大混戦ぶりが見て取れる。と言って、アルアイン自身はGIII毎日杯を勝った重賞ホースで、不利のあったGIIIシンザン記念以外はデビューから負けていない。実績、素質ともに一発を十分狙える1頭だった。

「中間の調教でも良い動きをしていましたし、今年はどの馬が勝ってもおかしくない。アルアインも十分やれると思っていました」

平成生まれでは初のJRA・GIジョッキーとなった 【写真:中原義史】

 殊勲の松山は1990年生まれの27歳。スポーツ界においてはもう“若手”と言える年齢ではないかもしれないが、それでもJRAとしては待望の平成生まれ初のJRA・GIジョッキーが誕生した。松山自身としてもGIではこれまで2着が3度あっただけに、待ちに待った美酒だっただろう。

「これまでもチャンスのある馬に乗せていただいていたのに、なかなか勝てませんでした。だから信じられなかったですし、本当に勝ったのかな?って。みんなから『おめでとう』と声を掛けられて、GI勝利を実感しています。やったんだな……って」

 噛み締めるように話す松山の表情が、この勝利の喜びの大きさを物語っている。レース振りも、「人間が必死になりすぎて最後にヨレてしまったのが悔いが残ります」と本人は辛口ジャッジなのだが、この大混戦を一刀両断する見事な腕達者ぶりだったと思う。

3コーナーの“死んだフリ”が勝因!?

 道中は好スタートから4番手の好位置を確保。「自在性のある馬なので、好位から人気馬を見ながら乗れればと思っていました。スタートも良かったので、いい位置を取れたかなと思います」と松山。ファンディーナを内に見つつ、後続が外から押し上げてきても「突っ張らずに我慢しました」。勝負どころの3〜4コーナーにかけて行きっぷりが怪しくなり、いったんは置いていかれそうになったものの、これが逆に功を奏したようだ。

「ファンディーナを先に行かせようという意識ではなくて、3コーナーから馬場が悪くてモタついてしまったんです。でも、それが良い面に出たかなと思います。ファンディーナが外に行ったので、その内を狙う形で。直線に向いたらまた伸びてくれました」

最後まで止まらない持続力のある末脚がアルアインの大きな武器だ 【写真:中原義史】

 あの場面は池江調教師も「4コーナーで内を突いたのが良かったですね。“死んだフリ”をしたのが勝因です(笑)」と冗談交じりに、大きな勝負のポイントだったと振り返っている。他馬が一斉にペースを上げて脚を使う中、アルアインはワンテンポ待ってのスパート。これがゴール寸前での差し切り勝ちにつながった。そして、この“死んだフリ”からの復活も、アルアインが秘める底力があってこそ。松山は相棒が持つ大きな長所として、末脚の持続力を挙げている。

「追ったらしっかり伸びてくれますし、持久力が優れているんです。最後の粘りが魅力ですね」

 思い返せば前走の毎日杯でも、僚馬サトノアーサーの猛追をしぶとく振り切ってのゴールだった。これまでマイル戦を中心に使われてきたように、池江調教師はマイラーとしての資質を見込んでいたが、どうやらアルアインはマイルにカテゴリーのとどまる器ではなさそう。トレーナーもすでに考えを改めている。

「これは、僕の発想の乏しさでもあるんですが、母系や体型からマイルにこだわりすぎていました。毎日杯の後には2000メートルなら十分行けると思いましたし、そうした僕の発想を打ち破ってくれる馬でしたね」

池江軍団、ダービーは3頭出しで

松山が「距離は問題ない」と太鼓判、ダービーでも主役を狙う 【写真:中原義史】

 このまま順調なら、次に狙うは当然、日本ダービー(5月27日、東京2400メートル芝)での二冠。皐月賞2着のペルシアンナイト、そして池江厩舎にはもう1頭、この馬こそがダービーの真打とも目されている素質馬サトノアーサーが控えている。

「ダービーは“3段重ね”ぐらいで行きたいですね(笑)」

 3段重ねとはつまり、ワンツースリーフィニッシュのことを差すのだけど、池江調教師のこの言葉がまるっきり冗談に聞こえないぐらい、ダービーに向けて池江軍団の層が分厚くなったのは事実。松山もこれを援護射撃するかのように「折り合いは問題ないので、距離は全然心配していません。今のところ注文はないですし、ダービーも問題ありません」と力強く言い切っている。

 大混戦の2017年牡馬クラシックロードは、この皐月賞をターニングポイントに池江厩舎が独占してしまうのか――いや、5着に敗れた関東の1番手レイデオロも休み明け初戦ながら最後は鋭く追い上げており、鞍上のルメールは「最後に良い脚で伸びてくれた。次は状態がもっと良くなると思うし、東京の長い直線。チャンスあるかもしれいよ」と逆襲を予告している。3つのトライアルが控えていることを考慮しても、まだまだ勢力図は安定しないだろう。

 ちなみに、この皐月賞の3連単の配当は106万4360円。的中したうらやましい方、いますか?

 ダービーでも大ホームランを狙って夢の穴馬探しに奔走するか、それとも混戦だからこそ手堅いミートを心がけていくか――“自分だけのダービー馬”を探すこの1カ月は、競馬ファンにとって何よりも楽しい1カ月だ。

(取材・文:森永淳洋/スポーツナビ)

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