投球回数の制限とトレーナーのベンチ入り 高校野球、次の100年への提案(1)

松倉雄太

毎日診ているトレーナーの判断は大切

現在の甲子園大会ではチーム付きトレーナーのベンチ入りは認められていない(写真はイメージ) 【写真は共同】

 甲子園大会特別ルールで策を講じるということも、一つの案として考えたい。

提案『普段チームに付いている専属トレーナーのベンチ入りを認める』

 現在、甲子園大会では主催者側が手配した理学療法士が待機し、試合後の選手の体のケアなどを担当している。しかし、毎日のように選手の体に触れているチーム付きのトレーナーは、地方大会では試合後すぐに選手の体のケアができるのに対し、甲子園大会期間中は基本的に宿舎に戻ってからや練習グラウンドでしか接することはできない。現状、ベンチ入りできる大人は監督と責任教師の2人だけである。試合中の全選手の疲労、異変にどこまで気付けるかという点では、少なからず不安があるように感じる。

 センバツ終了後、関西学生野球連盟の春季リーグ戦を取材した。そこで、かつて監督としてチームを甲子園出場に導いたある大学の監督に、トレーナーがベンチ入りできればという観点で話を伺った。

「基本的には賛成です。監督と責任教師だけでは体のことを全て分からないこともあります。ストップをかけるかどうか、トレーナーの判断は大きい。毎日診てくれているトレーナーがベンチにいると、選手も安心できると思います」

 関西学生野球連盟は日本高校野球連盟と同じ建物の中に事務所を構える。リーグ戦では昨秋からトレーナーのベンチ入りを正式に認めた。これまでもベンチ裏で待機することが可能だったが、それをより具体化して登録制にし、ベンチ入りを認めたというわけだ。他の大学リーグや社会人野球などでも、トレーナーがベンチやベンチ裏に待機することが認められており、死球などでトレーナーが真っ先にグラウンドに飛び出す光景をよく目にする。

公平性以上に導入のメリットが強いか

 毎日のように選手の体に触れているチーム付きトレーナーは、監督や責任教師が気付きにくいことにも気付くことがある。ベンチにいることで、選手も疲労など思ったことを言いやすい雰囲気をつくりやすいというメリットもある。

 特に投手は試合中にアドレナリンが出ていることが多く、肩や肘の異変に気付きにくい。そこでトレーナーが実際に診て、監督と選手に助言する。監督に「行けるか」と問われて「行ける」と答える選手でも、信頼を置くトレーナーの意見だと納得する部分もあるのではないだろうか。実際に選手を取材しても、「昨夜はトレーナーの先生に診てもらってストレッチをした」といった声をよく聞く。

 ただ、「各チームの公平性が保てるかどうか。そこを主催者側は気にするのではないか」と前述の大学監督は懸念する。なかには専属トレーナーが不在のチームもあるので、公平性に欠けるという声が挙がっても不思議ではない。

 この場合は主催者側が大会中限定でトレーナーを派遣することでできるだけ公平に近づけるのではないだろうか。公平性うんぬんの話もあるが、それよりもトレーナーがベンチに入ることに対するメリットの方が取材を通して感じる。実際に大学野球のベンチに入っているトレーナーにも意見を聞くと、難しいことも多いとした上で、「例えばちょっとしたケガなどで、『この子をこれ以上プレーさせたら危ないですよ』と監督に言える権限はあっても良いと思います」と話してもらった。

 甲子園特別ルールでの『普段チームに付いている専属トレーナーのベンチ入りを認める』。さまざまな声があるだろうが、一つの案として考えてみてはどうだろう。

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著者プロフィール

 1980年12月5日生まれ。小学校時代はリトルリーグでプレーしていたが、中学時代からは野球観戦に没頭。極端な言い方をすれば、野球を観戦するためならば、どこへでも行ってしまう。2004年からスポーツライターとなり、野球雑誌『ホームラン』などに寄稿している。また、2005年からはABCテレビ『速報甲子園への道』のリサーチャーとしても活動中。

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