投球回数の制限とトレーナーのベンチ入り 高校野球、次の100年への提案(1)

松倉雄太

「試合数×9イニング」はどうか

再試合を含め3試合で計475球を投げた福岡大大濠・三浦(背番号「1」) 【写真は共同】

 では、1試合単位の球数制限以外にどんなことができるのかを提案をしてみたい。

提案『球数ではなく1大会あたりのイニング数で制限する』

「試合数×9イニング」を1つの案として挙げる。

 例えばセンバツ大会なら、最大5試合×9回=45イニングを投手の登板可能イニングにする。準決勝まで全て9回完投だった場合、決勝では9回まで登板可能。決勝で延長15回完投まで考えるならば、準決勝までに継投などで延長の6イニング分を捻出しなければいけない。

 逆にそれまでに延長戦まで投げた場合は、どこかでイニング調整をしなければ決勝での9回完投はできない。もちろん、再試合、降雨ノーゲームなどは新たに1試合(9回)分をプラスする。点差によるコールドゲームがある地方大会なら、7回で終わった場合は2回分、5回で終わった場合は4回分を温存でき、先の試合に生かせるというわけだ。地方大会から甲子園へとつながる夏は、地方大会終了時に一旦リセットすることで、各チームの公平性は保てる。

 この1大会あたりのイニング数制限の考えに至るには理由がある。

 今年のセンバツで各都道府県高校野球連盟は候補校として128校を推薦した。候補になった各校は新チーム結成時から11月のシーズン終了までの試合成績報告書を提出する。ここには公式戦以外の非公式戦(練習試合、新人戦、1年生大会など)についての記載があるのだが、計4795試合の非公式戦で延長まで戦ったのは8試合しかなかった。

 延長で最も長いイニングだったのは12回(計2試合)。これは新人戦などのトーナメントの大会だ。引き分けは全部で297試合あったが、全て9回まででゲームを終了している。毎年普段の練習試合などで15回まで戦うことはめったにない。それならば、野球の本質である9回を一つの区切りにしてのルールをつくってみてはどうだろう。

投手の人数、細かい計算…デメリットも

 イニング数制限のデメリットは何か? 真っ先に思い浮かぶのは投手の人数。1人だけで勝ち上がってくるチームが出る可能性があることだ。

 実際に福岡大大濠・三浦は秋の公式戦全13試合を1人で投げ切っている。昨年は濱地真澄(現阪神)、一昨年は坂本裕哉(現立命館大)と毎年素晴らしい投手を輩出し、複数投手制も確立できている同校だが、結果的に昨秋の時点では三浦に次ぐ投手が台頭してこず、1人に頼ることになった。ここに毎年選手が入れ替わる高校野球の難しさを感じるとともに、指導者だけを責めることはできない。

 デメリットの2つ目は、投球回数が3分の1や3分の2になった場合の計算に手間がかかること。これに付随するが、春秋の地方大会前半では、主催者側が公式スコアをしっかりと付けず、得点や投手交代といった簡易記録で済ませているところもある。そうなれば投手の詳細な記録を主催者側が共有できないため、対戦相手だけでなく自チームも、その投手が残り何イニング投げられるのかを理解しないまま試合に入ってしまう可能性はある。

 実は仮に球数制限をしても同様で、各都道府県によって地方大会の運営人数、やり方が異なるため、ルール化をするには全国の地方大会を全て同じ運営にしなければならない。それをそろえるとなれば、かなりの年月を要することになるだろう。

 指導者の何人かにこの話を聞いてみたところ、「仮に球数制限、イニング制限をやるとしても、甲子園だけでなく、全国の地方大会と甲子園大会で共通のルールにしなければ、結局は意味がないのでは」という意見がいくつかみられた。

 悩ましいが、10年後、20年後の高校野球を見据えて時間をかけて議論する必要があるように感じる。その中で一つの案として『1大会あたりのイニング数で制限する』を考えてみてはどうだろうか。

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著者プロフィール

 1980年12月5日生まれ。小学校時代はリトルリーグでプレーしていたが、中学時代からは野球観戦に没頭。極端な言い方をすれば、野球を観戦するためならば、どこへでも行ってしまう。2004年からスポーツライターとなり、野球雑誌『ホームラン』などに寄稿している。また、2005年からはABCテレビ『速報甲子園への道』のリサーチャーとしても活動中。

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