選抜決勝は史上初の大阪勢対決に 敗戦で勇退の名将は最後に「感動」

楊順行

肚をくくっていた報徳・永田監督

9回表、履正社・溝邉のセーフティースクイズが決まり、3対3の同点に 【写真は共同】

「すごく力の差はあったと思います。だけど9回までリードして、逆転されてからもあきらめずに……高校生の力は、ただただすごいと思います。感動しました」

 この大会を最後に勇退する報徳学園(兵庫)・永田裕治監督の目がうるんでいるように見える。優勝候補の一角・履正社(大阪)に9回まで3対2とリード。しかし土俵際から逆転を許し、ベスト4で甲子園を去る。

 どこまでできるか楽しみ……と語って臨んだ準決勝。なにしろ、昨年秋は近畿大会ベスト8とはいえ、まずは地区大会を勝ち抜き、県大会出場を目標にスタートしたチームなのだ。力のないことは、重々承知している。

 永田監督の教え子で、次期監督となる大角健二部長によると、「これまでの甲子園では、ベンチ内で動くことが多かった永田先生ですが、今回はどっしりとしています。それだけ肚(はら)をくくっているということではないでしょうか」。

 それが、エース・西垣雅矢の成長などで、ベスト4まで進出。だから、昨年秋の近畿・神宮大会覇者である履正社との対戦も「楽しみ」なのである。

履正社が土壇場でうっちゃる

 試合は、序盤から動いた。

 初回、大会屈指のスラッガーである履正社・安田尚憲が、弾丸ライナーを右翼席へ。「ツーボール。真っすぐに絞りやすいカウントでした」という甲子園初アーチは通算50号の節目の一発だった。

 その後は小刻みに点を取り合い、6回に報徳が内野安打を足がかりに1点勝ち越した状況で、9回だ。

 履正社は先頭の代打・白瀧恵汰が右中間を破ると、続く竹田祐のバント、1番・石田龍史の四球で1死一、三塁。ここで続く溝辺冬輝が2度目に試みたセーフティースクイズが決まる(記録は犠打野選)。土壇場での同点。

 さらに、安田の四球のあと、不調だった4番・若林将平に勝ち越しタイムリーが出るなどして、履正社は報徳をうっちゃることになる。

決死の覚悟で同点スクイズ

 同点スクイズの溝辺は実は、日大三(東京)との初戦でも、9回の勝ち越しタイムリーでお立ち台に立っていた。「ガラにもないことをしたんで、みんなに『ヒーロー』『ヒーロー』と呼ばれる」と照れていたが、この日はもう決死の覚悟だった。

 2、6回の失点はいずれも、記録は内野安打ながら、アウトにできた自らの打球処理ミスが失点につながっている。バント失敗もあり、「2番の仕事が全然できていない」。そこで回ってきたチャンスだから、変化球に必死に食らいついた。

 さらに9回裏、報徳に1点返されてなおも1死一、三塁と一打同点のピンチ。二塁キャンバス寄りに、強い打球が飛んだ。6回にミスしたのと同じコース。

「6回もバウンドが合わず、足が動かなくてミスしてしまった。この9回も、足は動かなかったんですが死ぬ気で止めようと」

 溝邉は体を張って打球を止め、4―6―3の併殺が完成。6対4でゲームセットとなった。

「安田にちょうど通算50号の1本が出て、考えすぎで首を絞めていた若林も、ヒットで切り替えられるでしょう」と岡田龍生監督の話す履正社、2014年以来、2度目の決勝進出である。

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著者プロフィール

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。高校野球の春夏の甲子園取材は、2019年夏で57回を数える。

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