【KNOCKOUT】世界トップのせめぎ合い見せる梅野源治 「KO=正義じゃない」の真意

長谷川亮

4.1KNOCK OUTでタイのスター選手、ロートレックと対戦する梅野源治 【スポーツナビ】

「KNOCK OUT vol.2」(4月1日、東京・大田区総合体育館)で3大会連続出場となる梅野源治は、タイで“鉄車輪”の異名を取るスター選手ロートレック・ジャオタライトーンと対戦する。昨年10月にはムエタイの最高峰、ラジャダムナンスタジアム認定王座を獲得。ムエタイ界の頂点に立つ梅野が、わずかなバランスの崩れさえも勝敗を分けるムエタイのシビアな戦い、2月大会の後「KO=正義じゃない」と自身が放ったコメントの真意を語る。

ケガをしても試合に出続けることで完成度が高まる

「KOだけがすべてじゃない」のは、トップ選手同士の戦いでは、少しのミスが命取りになるから 【写真:中原義史】

――2014年に5カ月空いたことがある梅野選手ですが、その後はほぼ2カ月に1度のペースで試合を続けています。ケガやダメージが抜けない時期もありましたが、現在コンディションは問題ありませんか?

 そういう時もありましたけど、今までやってきて感じたのは、ケガをしていても試合に何か悪影響が出たかって言われたら出たことないんですね。ケガをしていて右足が使えない、左足が使えないっていうことがあって練習中は不安になるんですけど、それがいざ試合になった時、じゃあその箇所が使えないのかって言ったら使えているし、練習できてない技がスピードが遅いとか強く出せないとかっていう悪影響もありませんでした。なので、そんなに気にしなくてもいいのかなって。結局ケガをするのって得意技でよく使うからケガをする訳で、たとえば右のパンチだったら右のパンチを強く打って、当たり所が悪いと傷めるんです。そうやって自分が自信のある攻撃をして傷めることが多いから、今度は逆にケガしてない、自分が試合でそんなに使わないところ、得意じゃない攻撃をより練習できて、その分、逆にいいのかなっていう気も最近はしています。

――では、ケガがある中でも試合出場を続けてきたことで結果的に自分の完成度がより高まってきたというか。

 そうですね。今までもそうやってやってきて、1番最初の僕のスタイルって結構ヒザとか蹴りで距離を取って戦うものだったんですけど、それがだんだんパンチも打てるようになってヒジも打てるようになって、そうやって苦手なところも得意なところも練習して試合で実践して、いろんな攻撃ができるようになって、今はどのタイプが来ても戦えるようになってきました。それはやっぱり今まで、そうやって試合を積み重ねてきたからなんじゃないかと思います。それにタイでは試合の間が3カ月とか空いちゃうと、空き過ぎるから調整試合を絶対に入れるんです。半年空いちゃうともう2、3試合調整試合を入れたりします。

――そうしないと本調子にならないということでしょうか。

 絶対にならないんです。たとえばチャンピオンやトップランカーなんかと戦うには調整試合を入れないと絶対ダメだって。試合間隔が空くことで、ギャンブラーたちの信用も落ちてしまうんです。あいつ調子悪いんじゃないか? 練習やっていたのかな? って思われて賭け率が下がってしまう。その分こっちが盛り返さないといけないというのもあるので、やっぱり調整試合を入れて調子のいいところをギャンブラーに見せておいて、イーブンに持ってくるというのもあると思います。

――なるほど、継続して試合に出ていないと信用が落ちて試合に勝ち辛くなるのですね。

 そうですね、常にトップ戦線でいるためには必要だし、なのでトップ選手は1カ月に1回必ず試合をしていると思います。ムエタイだと勝敗を左右するのはもう本当にちょっとの差なんです。一瞬気を許して足を掛けられて、リングに手をついただけで負けになったりしてしまうので。

――梅野選手はそういう厳しい基準、高いレベルの中で戦い、ムエタイ王者になったのですね。

 KOだけがすべてじゃないっていうのはそこで、やっぱりある程度のレベルまで行くと1つのミスで試合が引っくり返ってしまうんです。そういうことがあるので、ただKOを狙って打ち合うっていうのは、そのレベルの選手たちはその盛り上げ方でいいと思うんですけど、僕はそことはレベルが違うところで争ってるっていうのを言っているんです。

 そもそもあの戦い方だとテクニックも伸びないんです。基本的に拮抗(きっこう)しているレベルで戦うと、KOって相当なことがない限り生まれない。その1発をどうやってもらわないようにするか、たとえば赤の選手はパンチが強い、青の選手は蹴りが強い――そうしたら青の選手は赤の選手のパンチに気をつけますよね。パンチをもらわないで自分の蹴りをどうやって当てるかをメインに考える。そうやって戦うと、パンチをもらわないようにして蹴りを当てるためのテクニックがつくんです。

 もちろん僕もKOを1番見せたいですけど、ただ「KOしないと悪だ」みたいな流れがあるので、それは先を見ていないんじゃないかなって。とにかく自分の1発を当てよう、KOしようって、自分のやりたいことだけをやろうとして過程が築けていないのに、いきなりKOっていう結果を求めている選手がいる。今は結果としてKOが生まれているからいいんですけど、あの戦い方をしていたらすぐダメになると思います。

世界中が注目するようなカード

タイのトップ選手との戦いでトップのせめぎ合いと削り合いを見て欲しいと語る梅野 【スポーツナビ】

――では、梅野選手はKOを狙いつつ、より高度なテクニックを駆使した試合を見せていくと。そういった中で4月に決定した、タイの強豪ロートレック選手との対戦についてお願いします。

 相当強い選手で、特にパンチとヒジ、ローキックがすごく強くて、そのどれでもKOしていますし、僕が負けた2人の選手にも勝っています。ただ、周りがロートレックはガンガン前に来るって言いますけど、タイのトップ選手は頭がいいし何でもできるので、僕のように前に来る選手に自分も前に来てぶつかるような試合はあまりしないと思います。だから僕も相手が来た時、逆に距離を取った時も対応できるよう、2つのパターンを考えながら練習しています。

――では、ロートレック選手の当日の出方によって、戦い方を変えていくと。

 そうですね。前回のワンマリオという選手も映像で見たら1ラウンドからガンガン来る選手だったんですけど、それがまったく来なかったのは、パンチで行ったらミドルキックを合わされる、ヒジを合わされる――特に僕のヒジを警戒していて、それで来なかったんだと思います。

――行きたくても来られなかったというか。

 戦前はバチバチ打ち合うはずだったのに何で打ち合わないんだって言われましたけど、行くはずの選手が行かれていない、じゃあそれは何でだろう? って考えて、“こういうことなんだな”っていうのが分かってくると、より面白くなってくるんじゃないかと思います。もちろん今回もしっかり倒したいと思ってますし、激しくて面白い試合をしたいんですけど、それを狙い過ぎて負けるくらいだったら、最低限の結果は残さないといけないので、その中で面白い試合を見せていきたいと思います。バランスを崩しながらでも打ち合って、1発当たったからラッキーとかじゃなくて、ちゃんと計算してカウンターでしっかり倒す、ローキックを効かせておいてハイキックで倒すとか、そういう過程があって結果があるので、その過程を見てほしいです。

――では試合への意気込みを最後に改めてお願いします。

 ロートレックは今60キロから61キロぐらいで戦っていて、僕とほぼ同じ階級の世界最高峰で、そのタイでも認められている選手とラジャダムナンのベルトを獲っている僕が戦う。これは世界中が注目するようなカードだと思います。間違いなくテクニック、攻撃力もそうですし、何においても世界トップのせめぎ合いと削り合いの試合になると思うので、本当に目を離さないで、何でこの攻撃をしているんだろう? って過程の部分を一緒に考えながら見てもらえたらすごくうれしいです。そういった攻防や駆け引きを1番見てもらいたいです。
  • 前へ
  • 1
  • 次へ

1/1ページ

著者プロフィール

1977年、東京都出身。「ゴング格闘技」編集部を経て2005年よりフリーのライターに。格闘技を中心に取材を行い、同年よりスポーツナビにも執筆を開始。そのほか映画関連やコラムの執筆、ドキュメンタリー映画『琉球シネマパラダイス』(2017)『沖縄工芸パラダイス』(2019)の監督も。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント