桑田真澄氏が見たWBC「環境整備が日本球界にとって急務」

岡田真理

菅野投手には大きな自信になったはず

大会を通じて正捕手として活躍し、大きな成長を見せた小林 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

――準決勝ではメジャーリーガーを翻弄(ほんろう)した菅野智之投手、千賀滉大投手のピッチングが話題となりましたが、それはどうご覧になりましたか。
 
 二人ともよく投げたと思います。特に菅野投手はあの独特の雰囲気の中、そして雨の中、あれだけのピッチングできたのは大きな自信になったでしょう。
 
 千賀投手に関しては、勢いもあるしすごいフォークもあると言われていますが、結局コントロールがないと打たれてしまうことがわかったはずです。最初の回は3者連続三振と素晴らしい結果でしたが、次の回ではツーストライクからど真ん中に投げてしまう場面もありました。
 
 準決勝、決勝の3試合を見ても、やはりヒットにされているのはほとんどが真ん中周辺のボールです。キャッチャーの構えたところにきっちり投げ切ればアウトが取れるということは、決勝でストローマン投手が証明しました。千賀投手にとっては痛い失点でしたけど、今後のことを考えればいい教訓になったのではないでしょうか。コントロールを磨いていけばもっと活躍できるはずです。
 
――この大会でラッキーボーイと言われた小林誠司選手は、ピッチャー出身の桑田さんから見ていかがでしたか。
 
 WBCという舞台でプレーした経験が、短期間で彼をものすごく成長させてくれましたね。準決勝でも盗塁を見事に刺していましたが、あのプレーはかなり自信になったはずです。
 
 ただ、配球面やキャッチングについては、まだ課題が残っているように感じます。プエルトリコのヤディア・モリーナ選手、アメリカのバスター・ポージー選手、ジョナサン・ルクロイ選手ら、準決勝まで残ったチームのキャッチャーはみんなキャッチングが上手ですよね。僕がアメリカでプレーしていた頃は、メジャーの捕手はキャッチングが上手くなくて、びっくりしたことがあります。ここ数年アメリカでは「フレーミング」と呼ばれる捕球技術が、チームの勝利に直結しているデータが明らかになったそうです。捕球技術でストライクの確率を上げるなんて日本では当たり前ですが、数字で示すと一気に広まるのはアメリカらしいですね。

 準優勝したプエルトリコで印象的だったのは、モリーナが発揮するリーダーシップです。どのピッチャーも、彼には絶大な信頼を置いていることが充分伝わってきました。小林選手もスローイングは文句なしなので、ピッチャーや野手の信頼をもっと得られるよう、キャッチングや打者の観察力、そして投手心理や試合の流れといった野球勘に磨きをかけてほしいです。

野球を通じて世界平和も実現できるのでは

試合後に優勝したアメリカを祝福するプエルトリコの選手 【Photo by Matt Roberts/Getty Images】

――最後に、今大会を振り返っての総括をお願いします。
 
 メジャーリーグの選手にとっては、普段チームメートとして一緒に戦っている選手たちがWBCでは対戦相手になりますが、配球や守備シフトなどの戦術面では対戦相手をきっちり分析する一方で、ちょっとしたプレーの合間に相手を気遣ったりする姿が見られました。決勝戦の後も、負けたプエルトリコはモリーナを中心にアメリカの選手に拍手を送っていました。相手をリスペクトする姿勢が素晴らしいと思いました。
 
 今回は観客席で試合を見ていましたが、ちょうど目の前にアメリカを応援するカップルとプエルトリコを応援するカップルが座っていたんです。お互い知らない者同士なのに「ナイスプレー」「今のプレーは良かったよ」と称えていました。スポーツの国際試合は、選手にとってもファンにとっても、お互いの国の習慣や歴史、伝統をリスペクトするいい機会。こうした大会が続けば、野球というスポーツを通じて世界の平和に貢献できるとさえ思います。

 今回はイスラエルの躍進などもあり、WBCが野球の世界的普及や人気向上につながる可能性も感じ取れました。単に収益を上げるだけではなく、スポーツ本来の目的も実現しうる大会になったと感じています。

 WBCは今回が最後になるという噂もありましたが、決勝の球場の雰囲気からすると、MLBも大会のポテンシャルを感じたと思います。

 まずは、リスクを承知で代表入りした選手たちには拍手を送りたいし、彼らには試合を通じて感じたことを所属チームで伝えてもらいたい。また、今回の大会では誰もが世界一を奪還する難しさを感じたからこそ、日本球界は大局的な視点で対策を練ってほしい。さらには、野球の国際大会が世界を一つにするという価値観をMLBと共有したうえで、次回大会をより良いものにする努力を始めてほしいと思います。

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著者プロフィール

1978年、静岡県生まれ。立教大学文学部卒業。プロアスリートのマネージャーを経てフリーライターに。『週刊ベースボール』『読む野球』『現代ビジネス』『パ・リーグ インサイト』などでアスリートのインタビュー記事やスポーツ関連のコラムを執筆。2014年にNPO法人ベースボール・レジェンド・ファウンデーションを設立し、プロ野球選手や球団の慈善活動をサポートしている。

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