米国初優勝でWBCは新たなページへ ようやく本気を出した野球王国

杉浦大介
“正しい時期にピークを持ってくること(Peaking at the right time)”

 多くの強豪が集まるスポーツイベントでは、それができるかどうかが優勝の条件として挙げられることがある。3月6日にアジアで開幕し、今夜、ロサンゼルスで幕を閉じた第4回のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)。約3週間のトーナメントの中で、アメリカは徐々に調子を上げ、決勝ラウンドに心身ともにピークに近い状態に持ってきた感があった。

 22日(現地時間)、ロサンゼルスのドジャー・スタジアムで行われた決勝戦で、アメリカは8−0でプエルトリコに完勝。ここまで7戦7勝で勝ち抜いてきたラテンのタレント集団を、野球王国の選手たちは攻守両面でまったく寄せ付けなかった。

最後の最後にすべてが結実

 先発のマーカス・ストローマンは6回まで無安打とプエルトリコの強力打線を完璧に封じ込め、今大会のMVPを獲得。打ってもイアン・キンズラーの2ランで先制すると、合計13安打を放ってプエルトリコの勢いをせき止めた。今大会でアメリカは6勝を挙げたが、51,565人の大観衆の前で行われた最後の試合こそが紛れもなくベストゲームだった。

「これほど誇らしいことはない。僕たちは特別なことを成し遂げ、その一部になれたことをプライドに感じるよ」

 試合後のフィールドでアダム・ジョーンズはそう語ったが、ここまですべてが順調だったわけではなかった。1次ラウンドではドミニカ共和国に逆転負けを喫し、コロンビアにもあわや敗北の大苦戦。2次ラウンドでもプエルトリコに5−6で競り負け、一時は敗退寸前に追い込まれた。

 WBCでは毎度のようにアメリカのモチベーションの乏しさが指摘されてきたが、今回の2敗はやる気の問題には見えなかった。アンドリュー・ミラー、タナー・ロアーク、ジャンカルロ・スタントンなど、一部の選手たちは単にまだピークに近い力が出せるコンディションではなかったのである。

 ただ……緊張感あふれる舞台でプレーを続ける過程で、アメリカ選手のフィジカルの準備も徐々に整っていったのだろう。苦戦も経験する中で、精神的にも研ぎ澄まされていく。準決勝で日本との接戦を制すると、チームの士気もピークへ。2次ラウンドでのプエルトリコ戦では打ち込まれたストローマンが、再戦となる決勝で無得点に抑えたのは象徴的だった。最後の最後ですべてが結実したのが、プエルトリコを粉砕した決勝戦だったのである。

群を抜いたアメリカ投手陣の分厚さ

 クレイトン・カーショー、マックス・シャーザー、クリス・セール、マイク・トラウト、ブライス・ハーパー……etc。大会開始前には、出場しなかったスーパースターのことばかりが話題になった。エリートクラスの多くが不参加なのだから、アメリカは確かに“ドリームチーム”ではなかった。

 しかし、たとえ苦肉の策の選抜だったとしても、スペシャリスト的な選手を適所に配置したチームづくりは的中したように思える。

 今大会を通じ、先発投手は平均防御率1.25とほぼ完璧。ミラー、パット・ニシェク、ネイト・ジョーンズ、ルーク・グレガーソンといったクセのあるリリーフ投手たちの攻略も、対戦経験の少ない異国のチームには容易ではなかった。

 豪華な打線をそろえていてもピッチングスタッフが手薄な国が目立った中で、アメリカ投手陣の層の厚さはやはり群を抜いていた。そして、メジャーでの所属チームから球数、イニングの制限が課される中で、ジム・リーランド監督も総じて上手に継投を行った印象がある。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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