レギュレーション変更でF1は高速化 ハッキネンとアレジが語る注目ポイント
バルセロナのテストでトップタイムをたたき出したフェラーリのライコネン 【写真:ロイター/アフロ】
なぜこれほど今年のマシンが速くなったのかと言うと、マシンのレギュレーションが変更されたことが大きい。マシンを速くさせた大きな要因は三つある。
一つ目はタイヤサイズの変更で、フロントタイヤが245ミリから305ミリへ、リヤタイヤが325ミリから405ミリへと、それぞれ約25パーセントほど幅広いタイヤとなった。
二つ目はダウンフォースの増加だ。タイヤ幅が広がったことに合わせて、車体幅が1800ミリから2000ミリへと広がり、フロントウイングとリヤウイングの幅もそれぞれ拡大された。
そして三つ目の要因として各マシンが搭載するパワーユニット(PU)の進化も忘れてはいけない。初めて登場した14年は、最大出力が700馬力程度といわれていたが、17年は1000馬力の大台に届くのではないかと言われている。
つまり、馬力が増え、マシンを押さえつけるダウンフォースが増え、それを支えるタイヤのグリップ力が物理的に大きくなったことで、たった1年前のマシンから約4秒以上の速さを手にしたのが、17年のF1マシンということだ。
ハッキネン「面白くなると信じている」
その一人が1998年、99年に日本グランプリでワールドチャンピオンを決めたミカ・ハッキネンだ。実際にバルセロナで開催されたテストの3日目を訪れたというハッキネンは、各ドライバーたちの笑顔が印象的だったと語った。
「今年は誰もがマシンと格闘していて、降りるときはみんな笑顔なんだ。昨年までのマシンはマシンそのもののポテンシャルは高いのだけど、タイヤをセーブして走る必要があり、ドライバーにとってはドライビングそのものが退屈な一面があった。しかし、今年は違う。なによりもタイヤのグリップが強大で、若いドライバーたちは、ドライビングだけで体力を奪われている。まさに、僕たちが戦っていた時代に近い、ドライバーに体力を求めるマシンが復活した感じだね。当然、シーズンは面白くなると信じている」
昔に戻ったF1マシン。しかし、若いファンは現在の2011年から続くピレリタイヤ時代しか知らない人も多く、昔のF1が戻ってきたと言われてもピンとこないだろう。そのことをハッキネンに伝えると、自身の経験を振り返り、その魅力を語ってくれた。
「僕がロータスでF1デビューしたとき(1991年)、当時はまだ予選専用タイヤがあった。最大でも2周しかグリップしないスペシャルなタイヤで、加速も減速もコーナリングも、ものすごいグリップ力で、非力なマシンでさえすごいマシンへと変えていた。先日見たバルセロナテストでは、みんなそれに近いというか、より奥までブレーキポイントを待てたり、加速がすごかったりと、タイヤのグリップ力が増えたことのメリットを最大限に感じていた。
このタイヤのグリップ力について懐かしいエピソードがある。僕が新人の頃、まだまだ首の筋力が足りなかった頃だ。首の筋力というのは不思議なもので、疲労が限界を超えると、まったく力が入らなくなるんだ。そしてF1マシンのコーナリング時のGフォースはご存知のようにすごい力がかかる。ステアリングを切っていくと、首が勝手に横に向いてしまって正面を見ることができなくなるんだ。だから、今だから言うが、じつは初期の頃のあるグランプリでは、片手でヘルメットを支え、片手でステアリングを握ってコーナリングをしていたことがある。僕自身もショックな経験だったよ」
メルセデス有利が変わらない理由
「コスト制限のためテストがたった8日間となっている現状は、逆にチーム間の差を埋めることが難しくなった弊害を生んでいるね。僕はサーキットで見ていて、今年もメルセデスが非常に好調に見えた。フェラーリもなかなかだった。反対にマクラーレンは厳しい状態だったね。昔はギャップを埋めるべく次々とプライベートテストを行って、その差を埋めていけたが現在は、テストが禁止されているので、シーズン中のフリー走行でテストしなければならない。メルセデスやフェラーリはトラブルフリーでマイレージを重ね、さらに多くのデータを収集していく。こうした状況では、最初につまずくと、それを挽回するのに昔より時間が掛かってしまう。それが現在、ルノーやホンダが苦しむ要因の一つだと思うよ。ただ、シーズンが始まれば走行距離も増えて追いついていける。でも、シーズン前のテストが制限されているので、いきなり追いつくということが昔のようにはいかないということなんだ」