フェンスを越えなかった筒香の一打を分析 世界一戦士・渡辺俊介氏に聞く
試合は、アメリカが4回、菊池涼介のエラーをきっかけにチャンスを得ると、マカチャンのレフトへのタイムリーで先制。1対1と同点の8回には1死二、三塁からA・ジョーンズのサードゴロを松田宣浩がはじく間に三走が勝ち越しのホームを踏んだ。
6回に菊池のホームランで同点に追いついた日本は、1点ビハインドの8回2死一、二塁のチャンスに、4番・筒香嘉智がライトフライに倒れて得点ならず。先発・菅野智之ら投手陣がアメリカ打線を6安打に抑えたものの、ミスが失点につながってしまった。
今回、第1回、第2回WBC連覇に貢献し、第1回大会では決勝のマウンドに立った渡辺俊介氏(新日鐵住金かずさマジックコーチ兼投手)に試合を解説してもらった。
失投の仕方が良かったアメリカ投手陣
以下は渡辺氏の解説。
「日本とアメリカの試合でここまでの投手戦は予想はできなかったですね。菅野投手と小林誠司捕手、ロアーク投手とポージー捕手とお互いの先発バッテリーがインコースをすごく効果的に使っていました。打者の近いところを意識させることで、外角のカットボール、スライダーが有効でした。審判のストライクゾーンは広くはなかったですが、ピッチャーがどちらもストライクゾーンを広く使えていたことで、お互いのバッターが強いスイングができないようにされていきました。
中盤以降は、アメリカの投手はミスの仕方が良かったです。コントロールミスをしても、大きく外れてボールになるか、あるいは低めに沈むか。間違っても長打になるようなボールがど真ん中に来ることがなかったです。さすがメジャーリーグで抑えやセットアッパーをやっている投手たちで、僅差でのピッチングを良く知っていました。
一方、日本の投手は失投が甘くなってしまった。例えば8回の千賀(滉大)投手にしても、1死一塁からキンズラーにチャンスを広げられる二塁打を打たれましたけど、追い込んでからのスライダーが甘くなってしまった。ストライクゾーンで勝負するのはいいんですけど、ちょっと投げ急いだかなと思います」
NPB球だったらフェンスオーバー!?
この試合、ほとんどのアメリカのピッチャーはツーシーム、ハードシンカー、カットボール、スライダーで徹底的に攻めてきました。それだったら普段から打ちやすいスライダー系を選択して狙っていたと思います。
少々詰まっても、バットの先でも、筒香選手が見せたボールを乗せて運ぶ打ち方だと、NPB球と例えば東京ドームであればフェンスオーバーしている打ち方だったと思います。ただ、WBC球は強く押し込むような打ち方で、芯と芯がしっかりと当たらないと打球が飛んでいってくれません。
メジャーと同じ規格のWBC球はボールが硬くて、表面が滑る皮なので、バットに吸い付かない。ボールとバットが当たったときの接地面積が狭いんですよね。だから、アメリカのボールは強く押し込まないといけません。
一方、NPB球はしっとりして湿度があってやわらかいので、バットに当たった瞬間ボールがつぶれてくれるので、回転がかかりやすくなります。なので、日本のバッターはボールをバットに乗せて運び、スピンをかけて遠くに飛ばして、スピンをかけることによってなかなかボールが落ちてこない打球を打つんですよね。
筒香選手はドミニカ共和国のウィンターリーグに参加して、海外のボールだったり、球場だったりというのは、日本のバッター陣の中ではもっとも慣れていたはずです。その中でとっさに出る打ち方というのは、日本でのスイングが出ると言うか、自分が思ったとおりに振れたがゆえに、逆にああいう普段どおりの打ち方が出たのかなと思います」
明暗分けた本当にちょっとの差
本人じゃないと分からないですが、WBC球とNPB球のボールの違いなのか、それともタイミングが少しずれて打ち損じたと思っているのか…。ただ、バッターはバットが下に入ったときのボールの感触は分かると思うので、あの瞬間周囲が沸いたほど本人は『フェンスを越えた』という手応えを感じていなかったんじゃないでしょうか?
本当にちょっとの差でした。でも、みんなほんのちょっとの差で野球をやっています。1センチ、2センチをずらす勝負をしているので、今回はほんの少しのズレが筒香選手には利にならなかったですね。
準決勝で敗れたとはいえ、ここまで全勝で来たのは初めて。いろいろと厳しい戦いをしてきて、チームとしての一体感は見えましたし、最後は本当にすごくいいチームになっていたと思います。試合に勝ち負けはあるので、互角な戦いをして一発勝負で負けたとしても、立派に戦ったので、堂々と日本に帰ってきてほしいですね」
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