履正社、日大三を倒した“したたかさ” 清宮から5三振の左腕・櫻井を打ち崩す

楊順行

「なんとか崩せ」で逆転3ラン

5回表、1死二、三塁から1番・石田の3ランが飛び出す。これで履正社が4−2と逆転 【写真は共同】

 現に4回までは安田、若林の3・4番は全打席三振。「低めのボールに手が出てしまうのは、真っすぐと同じ軌道でくるから。消える、という感じです」とは2番を打つ溝邉冬輝の話だ。かくて櫻井は4回まで2安打1失点、7奪三振。

 履正社の岡田監督が言う。

「スライダーはボールになるから、低めは捨てろと指示しているのに、全然見極められない。“そんなに曲がるんか。なら打たれへんわ。でも、なんとか崩せ”と言うしかありませんでした(笑)」

 なんとか、崩した。5回1死二、三塁から1番・石田龍史が、「とにかく犠牲フライを」とそのスライダーを叩くと、打球は伸びる、伸びる。バックスクリーン左に逆転3ランだ。

寺島仕込みの速球でエースが粘投

履正社のエース・竹田は初回に2点を失うも、粘りの投球を見せる 【写真は共同】

 投げては、エース・竹田祐が辛抱した。優勝した昨秋の神宮大会決勝では、自己最速の145キロをマークし、先発・救援で全4試合、20回3分の1を投げて1失点。「寺島(成輝・現東京ヤクルト)さんから“握りつぶす感じでリリースしろ”と教わったイメージが、球速アップにつながっています」とは本人で、「左右どちらの打者にも、きちんとインコースに投げられる」(岡田監督)ようになったことが成長の根拠だ。

 この試合では「毎日、日大三のビデオを見ていた。いい打線だし、いいチーム」(竹田)と意識しすぎたのか、きわどいコースを狙ってボールが先行し、初回に2失点。だが、ピンチをしのいでいくうちに、徐々に自分を取り戻す。球速は130キロ後半でも、要所でのスライダーを効果的に使い、同点に追いつかれた8回、なおも1死三塁のピンチには、「秋は隠していました(笑)」というフォークで1、2番をいずれも空振り三振。9回の集中打につなげている。

下位打線のしぶとさが伏線に

チームとしての方向性を徹底。履正社の打線はしたたかだ 【写真は共同】

 4万5000人の観客が注目した、1回戦ではもったいない好カード。終わってみれば12対5と大差がついたが、実質は、安田のタイムリーで勝負ありだったといえる。伏線にあったのは、履正社の下位打線のしぶとさだろう。

「上位は三振を取り、下位は打たせて取る」のが櫻井の青写真だったが、履正社は7番以下が4安打5四球とチャンスメイク。そのうち6回ホームを踏んでいる。

 岡田監督は言う。

「チームとしての方向性は徹底しますよ。このピッチャーはこう打とう、とかね。今日も、それぞれが打席の立ち位置を工夫したり、ノーステップで打ったりしていたと思います」

 このしたたかさ――。岡田監督が「投打ともに非常にレベルの高いチーム」と評する難敵を倒し、履正社が念願の全国制覇に好発進した。

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著者プロフィール

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。高校野球の春夏の甲子園取材は、2019年夏で57回を数える。

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