“ケガを知る男”岩隈久志を支える大局観 「結局僕はシーズン全体を考えている」

丹羽政善
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“IWAKUMA”の名が刻まれたWBC

2009年の第2回WBC、岩隈は4試合に登板し防御率1.35の好成績を残した 【写真は共同】

 あのWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)決勝での快投から、もう8年が経とうとしている。

 2009年3月23日(現地時間)。決勝戦のマウンドに上がった岩隈久志(当時東北楽天/現マリナーズ)は、韓国を相手に7回2/3を投げて、4安打2失点と圧巻のピッチングを見せた。WBCではラウンドごとに球数制限があり、大会によってもその数が違うので単純比較できないが、7回2/3は今もWBCにおいて先発投手が投げた最長イニングだ。

 あの年、決勝ラウンドの上限は100球だったが、岩隈が8回2死までに要した球数はわずか97球。第2ラウンドのキューバ戦でも、岩隈は6回を投げて5安打無失点の好投を見せており、球数は69球だった。これほど、WBCに向いている投手もいない。

 ただ、過去に何度かその決勝戦の話を聞いたことがあるが、意外にも彼が口にするのは、秋信守に一発を浴びたことや、李大浩に犠牲フライを許したことだったりと、打たれた記憶が多い。それが投手の悲しい性(さが)か。

 大リーグでの秋との対戦成績は17打数4安打、3三振、2四球で被打率は2割3分5厘と抑えているものの、一昨年だったか、練習試合で対戦した時にことごとく打たれ、苦手意識を口にしたこともあった。あの本塁打の記憶を無意識に引きずっているのかもしれない。

 それでも、紛れもなくあの年のWBCによって、”IWAKUMA”という名前が、しっかりと大リーグのスカウトらの頭に刻まれた。昔のメモをひっくり返していると、あるスカウトのこんな言葉が見つかった。

「パワーで押すタイプではないが、あの制球力があれば、大リーグに移籍しても、十分に通用する」

 その移籍が12年に実現すると、以来、5年間で63勝をマーク。日米通算170勝とし、キャリア200勝も視界に入る。スカウトの言葉は十分に証明されたわけだが、もちろん、長きにわたって岩隈のキャリアを支えているのは制球力だけではない。

黒田博樹が考える岩隈の強さ

 14年のこと。田中将大(ヤンキース)がデビューして開幕から勝ちを重ね、岩隈、ダルビッシュ有(レンジャーズ)も好調だったとき、当時ヤンキースにいた黒田博樹がこんな言葉を漏らしたことがある。
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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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