小技を絡め高い野球脳を表現すべし 侍ジャパン、世界一へのカギ〜打者編〜

中島大輔

“動かさない選手”がけん引も…

準決勝以降、侍ジャパンに必要となってくるものとは…… 【写真は共同】

 ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の過去3大会、「スモールベースボール」と言われる足や小技を絡めながらつなぐ野球でパワフルな相手に対抗してきた野球日本代表「侍ジャパン」が、今回は異なる戦いぶりを見せている。足で揺さぶる場面はそう多くないものの、持ち前の緻密な野球に長打を加え、ここまで6試合で46得点とオランダを1点上回り、東京ラウンドで最多得点をたたき出してみせた。

「動かさないといけない選手と、そうではない選手をある程度分けています」

 8日のオーストラリア戦後、小久保裕紀監督は攻撃の形についてそう説明している。1次ラウンドから打線をけん引したのは、“動かさない選手”だった。

 中でも指揮官が大会前から「不動の4番」と信頼を寄せた筒香嘉智が3本塁打、8打点。初戦のキューバ戦では初回にライト前タイムリーを放ち、15日のイスラエル戦では0対0で迎えた6回裏、バックスクリーンに均衡を破る本塁打を突き刺した。自らのバットでチャンスをモノにするだけでなく、打線の火付け役にもなっている。

 もう一人の主砲、中田翔は筒香と同じ3本塁打、8打点。特に、持ち味の勝負強さを発揮したのが2次ラウンド初戦のオランダ戦だった。同点の3回に3ランをレフトスタンドに運ぶと、延長タイブレークの11回には試合の決着をつける2点タイムリーをレフトに放っている。

 6番・坂本勇人は大会開幕時から好調で、打率4割5分。山田哲人は2次ラウンドで状態を上げ、14日のキューバ戦では2本塁打で勝利の立役者になった。さらに、下位打線に座る松田宣浩が打率4割、7打点と打線に厚みをつけている。9番・小林誠司も打率4割4分4厘、6打点の好成績で、チームのラッキーボーイとして欠かせない存在になった。

 ただし、これらはあくまで東京ラウンドでの成績だ。準決勝以降はメジャーリーグで活躍する一線級投手との対決になり、2次ラウンドまでの相手より数段上の力を持っている。そうした敵に対し、侍ジャパンはどうやって対抗していくべきか。2次ラウンドE組の首位通過を決めたイスラエル戦後、指揮官は見通しをこう語った。

「なかなかパワーで対抗して勝てるとは思っていないので、やっぱり日本らしい守備からのリズム、小林を中心とした投手力でしっかり守りながら、隙を見つけて攻撃したいなと思います」

打線に共通認識が浸透

キューバ戦での青木のセカンドゴロは打線に共通認識が浸透している現れだといえる 【写真は共同】

 自分本位で考えた場合、指揮官にとって理想のオーダーはイスラエル戦のものだろう。積極性と長打、足も使える山田をリードオフマンに配置し、2番・菊池涼介をはさんで、3番には青木宣親。4番・筒香、5番・中田(※この日は疲労のためスタメンを外れた)の両主砲の後には勝負強い坂本を置き、チャンスをモノにしていく。試合序盤、無死1塁の場面で菊池に送りバントのサインを出したことは少なかったように、基本的には選手たちの能力で得点を奪おうと考えている。

 そんな中、苦しい試合展開になった2次ラウンドで貴重な得点をもたらしたのが、“動かさないといけない選手”だった。14日のキューバ戦では2点を追いかける5回裏、チームとして狙い通りの攻撃が見られた。

「2点を追いかける場面では、とりあえず1点を取りにいこう」

 数日前のミーティングで稲葉篤紀打撃コーチの指示を実践したのが、3番の青木だった。1死二、三塁のチャンスで2ストライクに追い込まれると、相手の深い守備位置を見て1点狙いに切り替え、セカンドゴロで1点差。続く筒香のセンター前タイムリーでチームは同点に追いついている。

 稲葉コーチは「1点取れば、必ず試合は動くと思っていた」と振り返ったが、打線に共通認識が浸透し、着実に実行できるのは大きい。準決勝は負ければ終わりというプレッシャーに包まれ、さらに相手投手のレベルが上がるため、理想の形から外れてでも1点をもぎ取る必要が出てくる。こうした攻撃をできる野球脳の高さこそ、日本特有の武器だ。

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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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