意識を統一しブルペンの力を最大に 侍ジャパン、世界一へのカギ〜投手編〜

中島大輔

準決勝以降は一球の失投が命取りに

不安の残る松井だがアメリカでもプレッシャーのかかる場面で登板しそうだ 【写真は共同】

 そんななか、ブルペン陣で気にかかるのは、1次ラウンドの中国戦、2次ラウンドのオランダ戦とキューバ戦で起用された松井裕樹だ。3試合を無失点に抑えたものの、変化球が抜ける場面が時折見られた。中国戦では「(大会)初登板で力んでしまった」と話し、1点リードの7回に登板したオランダ戦ではそれ以上の緊張感があったと明かしている。1死一塁から3番・ボガーツの放った当たりはマウンドで跳ね、それを菊池涼介が好捕してセカンドでアウトにした一方、どれかが少しずれていたらピンチを迎えていた場面だった。

 結果的には3度の登板を無失点に抑えているものの、投球内容を首脳陣はどう見極めているのか。準決勝、決勝の連戦を考えると松井は必要な戦力だが、同時にこれまで以上のプレッシャーがかかる舞台で自分をコントロールできなければ、1球の失投が命取りになりかねない。

 それは1次ラウンドのC組とD組、さらに2次ラウンドのF組を見ても明らかだ。現地時間15日に行われたアメリカ対ベネズエラでは、終盤の長打で逆転劇が生まれた。アメリカは1点を追う8回、アダム・ジョーンズ、ホスマーがともに高めのストレートをしっかり仕留め、2本塁打で試合をひっくり返している。2次ラウンドで高い得点力を見せたオランダ以上の相手と、準決勝以降では相対することになるのだ。

 こうしたメジャーリーグのオールスター級打者との対戦について、牧田はこう見据えている。

「相当強力だと思います。名前負けしないことですね。(F組の)4チームともメジャーリーグのゴリゴリの選手がいますけど、あくまでも相手と勝負するより、自分のパフォーマンスを出すだけだと思うので。名前負けをしなければ、まったく問題ないかなと思いますね」

 陳腐な表現になるが、どんな舞台でも、誰が相手でも、ポイントは自分の投球をすることだ。低め中心の投球をできれば、いまの日本のブルペン陣なら大崩れすることはないだろう。メンタル面の強さとコンディションを見極め、一発勝負で自分の力を発揮できるブルペン陣を投入していくことが、ミスの許されない舞台で勝敗を分けそうだ。

 先発が予想されるのは菅野智之と千賀滉大。スターターはマウンドに立ってみないと状態がわからないが、仮に本調子でなかった場合、早い回からブルペンをつぎ込んでいく戦いになる。準決勝からそうした展開になると、中継ぎの枚数がある程度必要になるため、カギを握るのが則本昂大だ。東京ラウンドでは2試合ともに満足のいく結果を残すことができなかっただけに、復調が求められる。

「すべての策を練る」と小久保監督

「すべての策を練る」と渡米前に語った小久保監督 【写真は共同】

 泣いても笑っても残り2試合。3月16日、チャーター機でアメリカに旅立つ前の囲み取材で、小久保監督は東京ラウンドをこう振り返った。

「ここまで楽な試合はなかったです。そういったなかで戦った選手たちは一段と成長したと思います」

 接戦をモノにするごとにチームは結束力を増し、とりわけ勝ちパターンのブルペン陣は状態を上げてきた。

 東京ラウンドでの6試合を振り返ると、投手陣が不安を残した数少ないシーンは、ベンチと現場の意識が一致しなかった際に起こっている。オランダ戦で1点リードの9回に則本を送ったシーンと、イスラエル戦で8点リードの最終回にクローザーの牧田を送り込んだ場面だ。ともに翌日のリポートで書いたが、ベンチの采配と選手の意識がずれたことも影響し、不必要な失点につながった。準決勝、決勝ではこうしたことを起こさないように、限られた日数でさらにコミュニケーションを重ねることが必要になる。

「送り出した選手は信じるしかない。そこに自分自身が疑いを持たずに、自分が送り出した選手を信じると徹底して6試合やりました」

 アメリカに旅立つ前、小久保監督は前日の試合後会見と同じように語った。ベンチと現場が意識を一致させてこそ、グラウンドで最高の結果を得られると改めて感じていることだろう。

「まずは準決勝がすべてだと思って、すべての策を練ろうと思います」

 そう話した指揮官には、万全の準備を尽くし、最後まで悔いの残らない采配を振ってほしい。

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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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