大量リードでの抑え・牧田投入の是非 決勝Rを見越した則本投入はなかったか!?

中島大輔

大量リードでの登板の難しさ

8点リードという場面で最終回のマウンドに上がった3連投の牧田 【写真は共同】

 権藤コーチが自らブルペンに向かったように、万全を期しての采配と言える。この日も試合中盤から投手リレーがはまり、チームとして勝利への形を固めたかったのかもしれない。

 結果6連勝をしたものの、決勝ラウンドを見越せばこの交代には疑問符がつく。牧田ではなく、則本昂大を投入するべきではなかっただろうか。その起用法には、二つの意味がある。

 普段は緊迫した場面を任されるクローザーにとって、大差のついた登板で失点することは、プロ野球でも往々にしてあることだ。実際、牧田はイスラエル戦のピッチングをそう振り返っている。

「ブルペンで投げすぎた感もありました。点差は8点だったので、余裕ではないですけど……。抑えとしてああいう点差で行くことが(普段は)ないので、難しさはあったと思います」

3連投で本来の姿ではなかった牧田

手投げのような状態でコントロール、球威とも前日から落ちた牧田は3点を失った 【写真は共同】

 結果、先頭打者を四球で出してから投げ急いだ。そうして下半身の粘りが甘くなり、手投げのような状態に陥り、コントロール、球威とも前日から落ちた。

「その修正が試合のなかでできれば一番いいんですけど、今日はできなかったです。準決勝で投げる前にコンディションを整えないといけないと思うので、自分本来のピッチングをできるようにしっかり準備していきたい」

 牧田は2次ラウンド初戦のオランダ戦、キューバ戦ともに投げており、8点差のついたイスラエル戦では3試合連続登板になった。チームの勝ち方を固めるなら、なおのこと、大量リードでクローザーを投げさせる必要はなかった。準決勝まで中4日空くとはいえ、牧田の肩を消耗させる意味はまったくない。

投手の中心として期待された則本の復活

準決勝、決勝と連戦が続く決勝ラウンドでは1人でもコンディションのいい投手を用意したいところ。大量リードの場面で則本を投げさせて調子を取り戻させる選択肢はなかったか!? 【写真は共同】

 さらに言えば8点リードと余裕のある場面だっただけに、過去2試合続けて思うような投球のできていない則本に最終回を任せる手もあった。当初は投手陣の中心として期待されており、東京ラウンド最後の試合で結果を残せば、現在よりいい状態で則本はアメリカに向かえたのではないだろうか。

 侍ジャパンのブルペン陣は総じて好調で、14日のキューバ戦のように5回からでも継投に入れる駒がそろっている。しかし、日本は22日に準決勝、23日に決勝と連戦となり、1人でも多くコンディションのいい投手を用意しておきたい。不調や突然のケガなど不足の事態が起こる可能性もあるからだ。だからこそ、8点リードで迎えたイスラエル戦の最後をもっと有効に使いたかった。

本当の意味で世界一の戦いへ

「1試合、1試合勝つにつれてチームの雰囲気もすごく良くなっている」と語った千賀。6連勝の勢いで強豪ひしめく決勝ラウンドへ臨む 【写真は共同】

 2次ラウンド最後に先発した千賀は、チームの戦いぶりについてこう語った。

「ピッチャーがしっかり守れるところを守って、野手の方が点を返してくれるといういい雰囲気の中でやれていることが、ここまで一番大きいと思います。1試合、1試合勝つにつれてチームの雰囲気もすごく良くなっているので、この勢いでアメリカに入れたらなと思います」

 ただし、1、2次ラウンドが組み合わせに恵まれたのは、紛れもない事実だ。6日間のインターバルを置いて行われる準決勝では、F組からアメリカ、ドミニカ共和国、プエルトリコ、ベネズエラのどこが勝ち上がってきても、2次ラウンドの相手より数段上の実力を持つ。

「世界一奪還」を目指す戦いは、いよいよ本当の意味で幕を開ける。

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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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