9回は三振の取れる則本を優先!? オランダ戦薄氷の勝利も継投に疑問

中島大輔

秋吉はバレンティンに有言実行

秋吉はバレンティンに対してインコースを突いて最後はシンカーで空振り三振を奪った 【写真は共同】

 1点リードを逃げ切り体勢に入った試合終盤、ピンチを切り抜けたブルペン陣は牧田と同じく、自分の気持ちをコントロールできていた。

 7回1死一塁からボガーツのセンター前に抜けそうな当たりをセカンド・菊池涼介が好捕でアウトとし、2死一塁で迎えるは4番バレンティン。ここでマウンドに上がった秋吉亮は、有言実行のピッチングを見せた。

 外角低めにスライダーが2球外れ、同じコースから高めに浮いたスライダーがレフト線へのファウルとなった直後、142キロのストレートを内角高めに投げ切って追い込んだ。中国戦の後に「しっかりインコースに投げたら結構イライラする」と語っていた通りの展開で、最後は外角にシンカーを落として空振り三振に仕留めた。

プレミア12の反省を糧にした増井

一昨年に逆転負けを喫したプレミア12と同じような場面で登板した増井。前回の反省を生かして思い切って腕を振ったことが好結果につながった 【写真は共同】

 8回1死満塁と絶体絶命の場面で宮西尚生の後を受けた増井浩俊は、1年4カ月前の出来事を思い返して自らを奮い立たせた。

「プレミア12で同じような場面でやられていたので、そうしたところでまた使ってもらったことを意気に感じて、監督の気持ちに応えようと思って強い気持ちで投げました」

 9番Ra・オドュベルには初球のフォークを見逃された後、3球ストレートを続けて空振り三振。続くシモンズには変化球が2球外れ、3球目のストレートは止めたバットに当たってファウルになった。

「あれはボール球だったので、ちょっとラッキーだったなという気持ちでした」

 そして4球目は148キロのストレートを真ん中高めに投げ込み、ショートゴロと力でねじ伏せている。

「プレミアのときは丁寧にいきすぎて結果が出なかったので、今日は自分の持っているものを出そうと思って、思い切って腕を振っていきました」

 牧田や増井のように経験豊富な選手が頼りになるのは、過去の失敗を糧にして次の勝負に生かしていけるからだ。これまで数々の修羅場をくぐり抜けてきたからこそ、この日のオランダ戦のように重圧のかかるマウンドで開き直ることができる。

則本を生かしきれない侍ベンチ

ボール自体は決して悪くない則本。結果だけを見れば侍ベンチが則本を生かしきれていない 【写真は共同】

 一方、結果的に1点のリードを守り切ることができなかった則本だが、力のある球とキレのある変化球を投げていた。同点に追いつかれたのは、オランダをたたえるしかない。問題はなぜ、ベンチが9回のマウンドに送ったのかということだ。

 普段は先発の則本にとって、抑えの経験はほとんどない。プレミア12の準決勝・韓国戦を痛恨の継投ミスで落とした一因は、リリーフに送った則本を引っ張りすぎたことにある。今大会初戦のキューバ戦では5回からの2イニングを完璧に抑えながら、6回に3失点を喫した。侍ジャパンではベンチの起用法により、少なくとも結果だけを見れば、則本を生かしきれずにいる。

 オランダ戦では先発の石川歩が4点を追いつかれた後の4回、2番手として登板したのが平野佳寿だった。オリックスではチームの勝敗を背負って9回を任されるクローザーは、「まだ前半だったので、気持ち的には余裕を持ってマウンドに上がれたと思います」と振り返った。裏を返せば、試合終盤のマウンドはそれほどプレッシャーがかかるのだ。

 そうした場面を牧田や増井が抑えることができたのは、経験によるところが何より大きい。過去の反省を生かし、見事なピッチングを披露してみせた。

今後は一つの継投ミスが命取り

強豪ひしめく2次ラウンドで、今後は一つの継投ミスが命取りになりかねない。小久保監督の手腕が問われる 【写真は共同】

 この日のオランダは1番から6番までメジャーリーガーの精鋭+バレンティンを並べて手強い相手だった一方、7番から9番は明らかに力が劣っていた。仮に下位打線までメジャーリーガーが占めていたら、試合は違った展開になっていたかもしれない。

 そうした打線を誇るのが、準決勝以降で対戦すると予想されるアメリカ、ドミニカ共和国、ベネズエラなのだ。アメリカラウンドは文字通り一発勝負の舞台になり、一つの継投ミスが命取りになりかねない。

 オランダ戦で手にした薄氷の勝利は極めて大きいからこそ、失敗を深刻に受け止めるべきだ。理由を説明できない継投など言語道断である。

「世界一奪還」を果たすためには、指揮官も反省を生かすべきだ。

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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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