「稀勢の里は絶対優勝しないとダメ」兄弟子・西岩親方が語る新横綱の“宿命”
11針縫った翌日も稽古
新横綱として重圧のかかる場所に挑む稀勢の里(左) 【写真は共同】
行く先々でファンに、メディアに追い掛け回され、また横綱になったことで参加するイベントの数もぐっと増え、気の休まらない日々を送っているであろう稀勢の里。
「本当はもっとゆっくり稽古だけに集中して初日を迎えたいと思いますけれど、これは先輩方がみんな通ってきている新横綱の宿命ですから」。旧鳴戸部屋時代から稀勢の里の兄弟子にあたり、現在は部屋付きとして指導にあたる西岩親方(元関脇・若の里)は、そう新横綱の心中をおもんぱかった。
6日の稽古で左まぶたの上を11針縫う裂傷を負った稀勢の里だが、翌日も変わらず稽古に励むなど調整に余念がない。これには親方も「今までだったら怪我の翌日は休んでいたでしょう。大阪に入ってからの調整を見ていても、今までとは並々ならぬ決意、違う覚悟が見えました。横綱としての自覚も出てきたと思います」と目尻を下げる。
稀勢の里が絶対に優勝しなければいけない理由
「僕ははっきり言って甘い(横綱)昇進だったと思っています。実際、僕の元にもそういう声がたくさん届いている。そう言われるのは悔しいし、本人ももちろんそうだと思います。だから3月場所も制して2場所連続優勝することで、その声を払拭(ふっしょく)して、新横綱としてのスタートを切ってもらいたいんです」
平成以降に誕生した10横綱のうち、昇進の原則である「2場所連続優勝」を果たさずに綱を締めたのは鶴竜と稀勢の里のみ。ただ鶴竜は昇進直前の2場所で14勝1敗(優勝決定戦で白鵬に敗れ準優勝)、14勝1敗(優勝)と、誰が見ても原則に“準ずる”成績を残した。
対する稀勢の里は、12勝3敗(星の差2つで準優勝)、14勝1敗(優勝)での横綱昇進。優勝した1月場所も日馬富士、鶴竜、豪栄道の2横綱1大関が途中休場し対戦がなかったことで、一部からその価値を疑問視する声が挙がったことも事実だ。昨年の年間最多勝に輝いたように横綱に値する実力が備わっていることは数字も証明しているのだが、「取りこぼしが多い」「勝負弱い」と言った世間のイメージは簡単には消えない。注目度が高まっている今場所は、そういった過去の印象やネガティブ論を結果で覆すチャンスであるとも言えるだろう。