侍Jには“理想的展開”の黒星だった!? 経験の少ない指揮官に必要な開き直り

中島大輔

動かさないのは本音か、奮起を期待か

5番・中田に一発が出たのは収穫だ 【Getty Images】

 もう一つ、曖昧な答えをしたのがクリーンアップについてだ。小久保監督は3番・坂本勇人、4番・筒香嘉智、5番・中田翔の並びを「基本的にいじらない」と宮崎合宿2日目の2月24日から言い続けている。中田は阪神戦の7回、内角に抜けたスライダーをレフトスタンドに運び、稲葉篤紀打撃コーチは「いい方向に行っているのではないか」と話した。山田哲人も調整の遅れが心配されていたが、1日の台湾リーグ選抜戦で本塁打を放ったのに続き、阪神戦では引っ張って2安打を放っている。

 だが、坂本の状態が上がってこない。自分のタイミングでスイングできておらず、凡打の内容も良くない。それでもクリーンアップを動かさないのかと聞かれた小久保監督は、こう答えた。

「次の試合もクリーンアップは同じ形で行こうと、今の時点では思っています。あと1日、(考える時間が)明日あるので」

“今の時点”と限定しているが、ここで読み解く必要があるのは、小久保監督が「クリーンアップを動かさない」と言っているのは本心なのか、あるいは選手を奮起させるためなのか、ということだ。後者だった場合、WBC本番を迎えても坂本の状態が上がらなければ、山田と打順を入れ替えればいい。状況に応じて前言撤回するのは、普通の話だ。

 問題は、小久保監督にそうした柔軟性があるのか、あるいはこだわってきたクリーンアップの並びを的確なタイミングで動かせるのか、という点だ。坂本の状態が下降線をたどるようなら、田中広輔を抜てきする手もある。阪神戦の8回に松田宣浩の代打で出場した田中はセンター前へ安打を放つなど、状態がいい。代打で初球から振りに行く姿勢は、準備ができていた証拠でもある。まだ調整段階の現在、小久保監督がそこまで想定しながらシミュレーションできているなら、本番に向けて有意義な時間を過ごしていると言える。

初戦まで残り1試合、好材料も

5回に登板し3奪三振をマークした平野 【Getty Images】

 WBC初戦まで残り1試合。その位置付けについて指揮官はこう話した。

「本番では思い切って開き直らないといけない場面が出てくると思うので、開き直れる権利を得るためにも、準備の段階でとことん突き詰めようと思います。選手にはそういう話をしました」

 もちろん、7日のキューバ戦に向けて好材料もある。打線では中田に本塁打が出て、山田の状態が上向きだ。投手陣では28日の台湾リーグ選抜戦で2回4失点と不安を残した牧田和久が、この日は2回を完璧に抑えた。「前回の反省を踏まえて、コースももちろんですが、強い球を意識した結果、本来の自分の真っすぐが投げられました」と話した。

 3番手の平野佳寿は5回に登板し、先頭打者を出した後は3連続三振。「これまで変化球に苦しんでいましたが、今日はフォークボールが思ったところに投げられました」と収穫を口にしている。アンダースローの牧田、フォークで三振のとれる平野と、外国人打者に対して武器を持つ二人が上向きなのは大きい。

 7日のキューバ戦までに、残すは5日のオリックス戦のみ。選手の調整は各自に任せるしかない以上、チームとしてやるべきは、複数の勝負手を用意しておくことを含め、戦い方の形を定めることだ。

 今回のWBCでは侍ジャパンの2次ラウンド突破を危ぶむ声が聞かれるなど、不安視する声が少なくない。その理由の一つは、小久保監督の采配経験の少なさにある。現在はまだ調整段階と言えばそれまでだが、3日の阪神戦までチーム編成や作戦面での疑問が少なくない。百戦錬磨の指揮官なら、本番まで残り2試合の時点で迷いを漏らすようなことはないだろう。

 開き直りが必要なのは、誰よりも小久保監督自身だ。本番までに残された最後の1試合で試したいことはすべて試し、迷いを振り切って、決戦の場に臨んでほしい。

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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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