今年のテーマは「楽しむヤツが勝ち!」 JFLでFC今治を待ち受けるライバルたち

宇都宮徹壱

「(今治には)さっさと上がってほしい」(八戸・柱谷監督)

八戸の柱谷監督。JFL初挑戦の決め手として「J3ライセンスの存在」を挙げている 【宇都宮徹壱】

 そんな今治のライバルと目されるのが、ヴァンラーレ八戸と奈良クラブである。どちらもJ3ライセンスを取得しており、Jクラブの指導経験のある新監督を迎えた。まずは「吉武監督とはS級(ライセンス)が同期だった」という、柱谷哲二監督。元日本代表のキャリアを持ち、北海道コンサドーレ札幌、東京ヴェルディ、水戸ホーリーホック、ガイナーレ鳥取で指揮してきた。今回、初めてJFLクラブを率いることを決意させたのは、まず新スタジアムをはじめとする施設の素晴らしさ、そしてJ3ライセンスの存在が大きかったという。

「水戸の監督時代に困ったのは、そこだもんね。『みんなでJ1に行こう!』と言っても、(J1)ライセンスがないから行けない。そうなると選手たちも、自然と(J1クラブに)引き抜いてくれというプレーをするようになる。今治ですか? 今は自分のところで精いっぱいですよ。スタジアムが完成するまで、あちこち転戦するみたいですけれど、それでも(今季の予算は)7億近くあるんでしょ? それってJ2からJ1を狙えるくらいの金額だから、ちょっと規模が違うよね。なので、お金がいっぱいあるところは、さっさと上がってほしい。邪魔だもん(笑)」

 一方、奈良を率いるのは、薩川了洋監督。現役時代は、横浜フリューゲルスと柏レイソルで活躍し、現役引退後は、AC長野パルセイロ、FC琉球、SC相模原を指揮してきた。JFLクラブを率いるのは、長野時代以来5年ぶり。「また帰ってきちゃったよ(笑)」と苦笑いを浮かべつつも、やりがいと手応えは感じている様子だ。いわば「昇格請負人」としての就任となるが、他のJ3ライセンスクラブについてはどう見ているのだろうか。

「そこまで意識していないね。はっきり言ってゼロ。それより、まずは(初戦の)FC大阪をたたくこと。そこから流経大(ドラゴンズ龍ケ崎)、Honda FC、大分、(ラインメール)青森と続くからね。この5試合で、どれだけ勝ち点を積み上げられるかが重要。ここで崩れてしまうと、1stステージ(優勝)はないと思っている。実は(昨シーズンから)メンバーはそんなに変わっていない。新加入は7人かな。ただしJ3でやっていた監督としては、目先の勝負も大事だけれど、上のカテゴリーを見据えて選手を成長させたい。実際、選手も『楽しい』と言ってくれている。ほら、今年は『楽しむヤツが勝ち!』なんでしょ? だったらウチは勝てるんじゃない(笑)」

「『門番』としてしっかり止めないと」(Honda FC・井幡監督)

JFLの「門番」Honda FC。昨シーズンのJFL覇者は天皇杯でもラウンド16に進出 【宇都宮徹壱】

 八戸の柱谷監督も、奈良の薩川監督も、今治に対して(少なくとも表面上は)あからさまなライバル心を見せることはなかった。むしろ「今治を倒したい」という野望は、ライセンスや昇格争いとは別のところから芽生えるものなのかもしれない。

 その筆頭となりそうなのが、今治とともにJFL昇格を果たした三重である。3年前の三重県リーグ時代からチームを率いる海津英志監督は、もともと暁中学校・高等学校サッカー部で指導していた経歴の持ち主(愛媛FCの間瀬秀一監督は教え子)。久々に話を聞くと、やはり同期昇格の今治へのライバル心を隠そうとはしなかった。

「もちろん全てのチームに負けたくないけれど、一緒に上がった今治さんには地域CL(決勝ラウンド)でコテンパンにやられたのでね。次に対戦するときは、われわれが成長したところを見せたいです。『岡田さんのクラブ』というのを抜きにして、同じカテゴリーで戦って上に上がってきたチームということで、やっぱり意識はしますよ(笑)。前評判も高いし、良い準備もしているようなので、そういうチームに勝つという楽しみもある。何とか食らいついていきたいですよね」

 三重とは別の意味で「今治に負けられない」と息巻いているのが、昨シーズンのJFL覇者、Honda FCである。前身の本田技研工業サッカー部は、旧JSL(日本サッカーリーグ)時代からの名門でありながら、あえてプロ化の波に背を向け、Jリーグ開幕から四半世紀が過ぎた今も「日本のアマチュア最強クラブ」としての矜持(きょうじ)を保ち続けている。そしてJFLにあっては、Jを目指すクラブが必ず乗り越えなければならない「門番」として、ずっとにらみを効かせてきた。今季で4年目となる井幡博康監督は、言葉を選びながらもこう語る。

「ウチだけでなく他のチームも、メディアで取り上げられる今治を見ていて『あそこは上げさせないぞ』と思っているわけですよ。とりわけウチは『門番』なので、周りからのそういう期待もありますよね(笑)。ちなみに今季から使用するボールは、わりと転がりにくいんですよね。正直、今のウチのサッカーだとやりにくいので、勝つために変えるところは変えようと思っています。今治さんはポゼッションサッカーをするチームですけれど、ボールが走らなくても、やっぱり自分たちのサッカーを貫くんでしょうかね?」

 Honda FCは、今治のホーム開幕戦(第2節)での対戦相手でもある。「向こうにしてみれば(勝てば)勢いも得られるから、がっぷり四つでくるだろうけれど、ウチは『門番』としてしっかり止めないと」と井幡監督。果たして今治にとり、今季のJFLは「楽しむヤツが勝ち!」という展開になるだろうか。まずは3月12日にひうちで行われる、JFLの新参者と門番との真剣勝負の模様をレポートすることにしたい。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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