バレンティンら強打者そろうオランダ代表 WBCで目指す“野球フィーバー”

松崎晃平

バレンティンはオランダ代表でも主砲を務める 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 今大会のダークホースと呼ばれるオランダ代表。昨秋の強化試合でも日本相手に接戦を演じ、その実力を証明した。本番ではウラディミール・バレンティン(東京ヤクルト)、リック・バンデンハーク(福岡ソフトバンク)が加わるほか、メジャーリーグで活躍する選手も追加される。ただ、そんな国の内実はまだあまり知られてない。オランダがここまでの強豪になった経緯はどんなものなのだろう。

キュラソーに野球の種をまいたAJ

 まず、オランダ代表を初めて見た人たちが気付くのが黒人選手の多さだ。彼らはカリブ海に浮かぶキュラソー、アルバといったオランダ王国構成国出身の選手たち。バレンティンもキュラソー出身だ。

 オランダのスポーツといえばサッカーだが、キュラソーでも十数年前までは、本土と同じく、一番の人気はサッカーであった。転機となったのは一人の英雄。19歳でワールドシリーズ初打席ホームランを放ち、メジャー通算17年で434本塁打、さらには10年連続ゴールデングラブを達成したアンドリュー・ジョーンズ(元東北楽天)だ。人口15万人弱のキュラソーの島民たちはこの英雄の誕生に歓喜。少年たちはこぞって野球を始めた。

 現在メジャーで活躍するジュリクソン・プロファー(レンジャーズ)やアンドレルトン・シモンズ(エンゼルス)らのほとんどが、幼少期にジョーンズにあこがれ野球を始めた世代。一人の英雄が野球の種をまき、今花が咲き始めている。キュラソーとはそんな島だ。
 
 ジョーンズの影響か、キュラソー出身のメジャーリーガーは全員が野手登録。一方、投手登録選手には本土出身者が多い。

 その本土での野球の歴史は古く、王立オランダ野球ソフトボール協会の設立は1912年。今年で105周年を迎える。オランダ語には独自に「野球」を意味する「ホンクボル(Honkbal)」という単語が存在し、オランダサッカーのレジェンドであるヨハン・クライフは幼少期に野球をプレーしていた。この国では、他のヨーロッパ諸国と比べると、野球が文化として存在していることが分かる。

 2013年から日本が代表チームの常設化をしたが、オランダ代表はその何十年も前から常設。2年に一度、シーズン途中の7月に自前で国際大会「ハーレムホンクボルウイーク」を開催しており、キューバ代表や日本の大学選抜などを招待して試合をしている。昨年は中日のドラフト1位・柳裕也が中心の日本を破り、優勝した。

42歳・コルデマンスが精神的支柱

オランダ投手陣の精神的支柱・コルデマンス 【写真:ロイター/アフロ】

 そんな中で目立つのが現在42歳のロビー・コルデマンス。WBCは今回で4回連続の出場だ。09年の第2回大会では、ドミニカ共和国戦でロングリリーフし好投。11年の野球ワールドカップでは決勝でユリエスキ・グリエル(アストロズ)、アルフレド・デスパイネ(福岡ソフトバンク)、ホセ・アブレイユ(ホワイトソックス)を擁するキューバを8回途中1失点に抑え、オランダを初の世界一へ導いた。大会後はオランダが“プチ野球フィーバー”に沸き、代表メンバー全員に「サー」の称号が与えられた。

 代表監督でキュラソー出身のヘンスリー・ミューレンも彼には一目置いており、前回大会の日本戦では彼を先発に抜てき。「日本に勝てばオランダで野球フィーバーが巻き起こる」と意気込んで先発のマウンドに立ったが、3本塁打を浴びその夢ははかなくついえた。それでも若手に指導、ノックもこなす精神的支柱として、今大会も重要な役目を果たす。

 ただ、国内での野球の地位はまだまだ盤石なものではない。「ハーレムホンクボルウィーク」は財政難により次回大会の中止が発表された。「ホーフトクラッセ」と呼ばれるオランダの国内リーグも観客は毎試合数百人。最大でも「オランダシリーズ」で1000人強が入る程度だ。

 こうした状況を打破するための絶好の機会が今回のWBCだ。20年の東京五輪で野球が復活し、さらには近年の代表の好成績もあり、オランダ五輪協会・スポーツ連盟は国内での野球に対する予算の拡大を発表。オランダ国内でもWBC全試合が放映されるというのだ。

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著者プロフィール

福岡県生まれ。2009年WBCでオランダがドミニカ共和国を2度撃破したことに衝撃を受け、オランダ野球に傾倒。オランダ野球観戦のためにオランダにホームステイ、一人旅。2015年にはプレミア12観戦のため台湾に2週間近く滞在。ブログ『蘭野球事始』では、オランダ野球に関する記事や選手名鑑を投稿している。

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