スタントンの言葉からにじむ危機感 敗退から学びWBC初制覇を狙う米国

丹羽政善

カギになるドミニカ共和国との対戦

前回大会では2次ラウンドで敗退し、肩を落とすスタントン。その敗戦を教訓に今大会へ臨む 【Getty Images】

 1次ラウンドは、そのドミニカ共和国と同組になった。「まずは、ドミニカ共和国がライバルだ」とスタントン。

「他にも強豪はいる。ただ、まずは1次ラウンドで対戦するドミニカ共和国を意識している。おそらく、2次ラウンドでも対戦する。前回もそうだったが、彼らに勝たなければ、その先はない」

 前回は、ドミニカ共和国に敗れて敗者復活に回ると、プエルトリコにも敗れ、決勝ラウンド出場を断たれた。今回、1次ラウンドの同組は、コロンビアとカナダ。順当なら米国とドミニカ共和国が2次ラウンドへ進むが、確かにそこで対戦するドミニカ共和国との戦いが、カギになりうる。

 では、そこで勝敗を分けるものは何か。言い換えれば、これまでそれなりの戦力を持ちながら、なぜ、米国が勝てなかったのかということでもあるが、その問いにスタントンは、「差なんてあるとは思えない。強いて言えば、そこに一発勝負の怖さがある」と答え、続けた。

「162試合戦うのと、1試合、2試合で勝負が決まるWBCはまるで異なる。いくらでも番狂わせが起きる。プレーオフでも5試合、7試合を戦う。その場合、力のあるチームが勝つ確率が高くなるが、WBCのフォーマットでは何があってもおかしくない」

 前回はオランダが決勝ラウンドまで進んだ。イタリアも1次ラウンドを勝ち抜いた。09年の第2回大会で準決勝を戦ったベネズエラと韓国も、前回は1次ラウンドで敗退した。実際、そういう例には枚挙にいとまがない。

 米国も前回はわずかの差で敗退することになった。先ほども少し触れたが、勝てば決勝ラウンド進出が決まるドミニカ共和国戦では、1対1の同点の9回表に勝ち越しを許して惜敗したが、試合の行方そのものは、どちらに転んでもおかしくなかった。

「2次ラウンドへ進めば、ある程度、力は拮抗(きっこう)する。となれば、ちょっとしたことで勝者にも敗者にもなりうる。それが前回、学んだことだ」とスタントンは話し、決して、「勝てる」と楽観的なことを口にしなかった。彼はWBCの怖さを知っているのだ。

不安が残る先発投手陣

 今回、そんな彼らにとって不安があるとしたら、先発陣だろう。

 クリス・アーチャー(レイズ)、ダニー・ダフィー(ロイヤルズ)、マルカス・ストローマン(ブルージェイズ)の3人が先発ローテーションを組むが、クレイトン・カーショー(ドジャース)、マディソン・バムガーナー(ジャイアンツ)、ジェーク・アリエッタ(カブス)といった投手と比べれば、安定感を欠く。マックス・シャーザー(ナショナルズ)が入れば違ったが、彼は故障で辞退を迫られた。

 序盤でビハインドとなれば、いくら強打の米国打線でも、攻めあぐねるのではなないか。ドミニカ共和国、ベネズエラ、プエルトリコは、中継ぎ、抑えの層も厚い。先制しなければ、分が悪くなる。

 ただ、彼らに上積みがあるとすれば、WBCのような大会では、ちょっとしたことが試合を左右すると知っていること。そして、スタントンの言葉にもにじむ危機感。米国がなりふり構わず勝ちに来たら、相手には厄介だ。

 スタントンは、オープン戦の初戦から出場した。WBCの前に出来るだけ打席に立ちたいと監督に伝えてある。完璧に仕上げて、大会に臨む。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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