初日から力強かった牧田のブルペン 侍ジャパン合宿が強風の中スタート

中島大輔

平日ながら5440人の観客

小久保監督も称賛した牧田は合宿初日から力強いストレートを投げ込んだ 【写真は共同】

 晴れ間の広がる宮崎では2月23日、強風が吹き付けて気温15度と肌寒いなか、KIRISHIMAサンマリンスタジアム宮崎には平日ながら5440人の観客が野球日本代表「侍ジャパン」の強化合宿に訪れた。ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の初戦を12日後に迎える、侍ジャパンへの期待がうかがえる光景だった。

 2大会ぶりの世界一を目指し、侍ジャパンがいよいよ本番に向けて始動した。小久保裕紀監督が選手たちに求めたのは、“二段構えの準備”だ。

「3月7日の開幕に合わせて、もちろんこの合宿は大切な時期になります。それと同時に、選手たちには143試合戦う(プロ野球の)ペナントレースがある。練習量を落とす選手は落としていいんですけど、やらないといけない選手は練習量を落とさないように、裏方さん、コーチ陣を使ってやってくださいと話しました」

 すでに自チームで春季キャンプを20日以上すごした選手たちは実戦を迎えられるくらいのコンディションにあり、WBC本番に向けた調整は各自に任されている。侍ジャパンの強化合宿初日はウォーミングアップの後、投内連携やシートノックなど軽めのメニューに終わるなか、特に精力的に動いたのがブルペン陣だった。

「感触的には今年一番」だった牧田

 ブルペン捕手ではなく、嶋基宏、大野奨太、小林誠司がマスクをかぶり、平野佳寿、牧田和久、秋吉亮、岡田俊哉、そして先発陣では石川歩と武田翔太がそれぞれ30〜50球ほど投げ込んだ。視察した小久保監督が特に状態を称えたのが、投手陣では唯一前回大会を経験している牧田だった。

「ほかのピッチャー陣と見ていたんですけど、独特の軌道でした。スピードガン以上に速く感じますね。いいボールを投げるなと思いました」

 一部報道でブルペンのマウンドがWBC本番と同じ硬さに整備されると伝えられたが、この日は水をまきすぎたせいか、武田によれば「日本と同じような感じ」だった。実際、牧田も1度足を滑らせている。それでも34球、アンダースローから力のある真っすぐ、カーブをしっかり投げていた。

「思ったところに投げられたし、カーブも思ったより投げられたので、感触的には今年一番です」

培ってきた経験をチームメイトに還元

 前回大会で抑えを務めた牧田に小久保監督が“便利屋”としての働きを求めているのは、適応力の高さゆえだろう。先発からリリーフまで任される役割について、牧田は常々「自分にしかできない」と誇りを持っている。超短期決戦のWBCでは互いのデータがほとんどなく、アンダースローという世界に類の少ない牧田の希少価値は極めて高い。

 牧田はそうした役割をこなすことに加え、培ってきた経験をチームメイトに還元しようと考えている。

「ボールをどういうふうにこねるかとか、汗を手に馴染ませるとか、ロジンをしっかり使うとか、情報交換してやっています。前回大会ではサンフランシスコの球場で、2人しかブルペンで投げられなかったんですよ。ブルペンの横に待機所がなく、ベンチから行く形だったので、投げる人しか行けなかった。その辺の準備が、中継ぎ陣の一番難しいところかなと思います」

宮西、秋吉は緊急登板への準備

 世界一奪還を果たすうえで、カギを握るのが中継ぎ陣だ。球数制限のあるなか、2番手以降の投手が試合の流れをどう変えるかで、勝敗は大きく左右される。首脳陣もそう考えているからこそ、今大会では牧田や秋吉、平野らブルペンのスペシャリストたちが集められたのだろう。本人たちも、いつでもスクランブル登板できてこそ、真価を発揮できると考えている。

 北海道日本ハムのブルペンを支える宮西尚生は、シーズン中とは異なる調整法でWBCに臨むつもりだ。長いペナントレースを乗り切るため、日本ハムでは1試合に2度までしかブルペンで肩をつくらない。しかし、超短期決戦の今回は、何度でも登板準備を繰り返す覚悟を固めている。

「いつでも行く準備をしておくのが僕ら選手の役目なので。『今、行けるか』と言われて、『すぐ行けます』と言えるような準備をしておかないといけないと思っています」

 合宿初日、34球を投げた秋吉はこう話した。

「普段のブルペンでは30球も投げないくらいです。今日は納得いく感じで終われました。しっかり狙って、インコース、アウトコースに投げられたので、(予定より早く)やめました。中継ぎなので球数を増やしたらダメだし、連投も考えないといけない。少なめの球数でいい状態に持っていってゲームに入れるというのは、いつものパターンです」

小久保監督の嶋への変わらぬ信頼

 ブルペンで秋吉と石川の球を受けた嶋は、「日頃受けることのないピッチャーを受けて、楽しいなという思いもあります」と笑顔を見せた。ふくらはぎの状態が万全ではないものの、キャッチャーとして受ける分には何の問題も感じられなかった。小久保監督は「どのくらい動けるかを把握したうえで、嶋を招集しています。3月7日までにまだ時間があるので、焦らないようにやってもらいたい。今の状況でも侍に必要な選手だと、他の選手、スタッフにも伝えています」と変わらぬ信頼を口にしている。

 本番までまだ10日以上もあり、合宿初日は選手たちの間に張り詰めた緊張のようなものはまだ漂っていなかった。自分のペースで調整しながら、3月7日のキューバ戦に合わせてどこまでコンディションを上げられるか。それぞれの準備が、世界一奪還への最大のポイントになる。
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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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