イチローのいない侍ジャパンの“自立” 世界一奪還へ求められるもの

丹羽政善

今の侍はジーター引退後のヤンキース

若いメンバーたちが実力を発揮でき、世界一を取ったときこそ、日本野球界も次のステージに進むことができる 【SAMURAI JAPAN via Getty Images】

 そういう中で開催される今大会は、侍ジャパンにとって岐路となりうる。

 最初の2回は、勝つことも、注目も、興行もイチローに頼るところが大きかった。仮に前回のWBCでも勝って3連覇を成し遂げていれば、状況は違ったかもしれないが、準決勝で敗れたことで、再びイチローの影がちらつくことになった。

 その状況というのは実は、デレック・ジーター引退後のヤンキースにも似ている。彼が14年に引退すると喪失感が広がり、今も方向性を見いだせないまま。最後の打席でサヨナラ安打を放ったジーターについて試合後、イチローがこう語ったのが印象に残る。

「いなくなってから大きな存在を示す数少ない人だと思います。いるときにそれが出来る人はいると思うけど、いなくなってから、どれだけジーターに守られて来たのか、それは選手、コーチ、監督だけでなく、メディアもそうなんじゃないの? ジーターに支えられて来たと痛感するんじゃないかなぁ」

 侍ジャパンにとってのイチローこそ、まさにそんな存在。では今回、イチローの存在感を超えられるのか、無意識のうちに姿を探してしまうのか。選手らが問われるものは小さくないが、イチローの存在を消さない限り、チームの成長はない。

新時代を築く侍メンバーずらり

 新時代を築く戦力はそろった。

 日本の主砲に成長した筒香嘉智、史上初となる2年連続トリプルスリーを達成した山田哲人、2015年にシーズン歴代最多の216安打を放った秋山翔吾ら、大リーグ注目の野手も少なくない。

 また、絶対的なエース菅野智之、日米野球で登板したとき、大リーガーらが「メジャーでも通用する」と評価した則本昂大、昨年キャリア最多の14勝を挙げ、2.16で防御率のタイトルを獲得した石川歩らが投手陣を支え、南米や米国代表のロースターに入っている投手らと比べれば確かに無名だが、日本人投手が大リーグでも通用することは証明されており、不安はない。

若いメンバーたちに求められる自立

 1次ラウンドは、中国、オーストラリア、キューバが相手。勝ち抜けば2次ラウンドで、おそらく韓国、オランダ、キューバと決勝ラウンドに進出する2枠を争うことになるだろうが、実力を客観的に評価すれば、日本は頭一つ抜けている。

 ただ、勝たなくてはと余計なプレッシャーがかかり、例えば、04年のアテネ五輪でオーストラリアに番狂わせを喫したときのように、本来の戦い方を忘れてしまった場合にどうなるか。

 仮にそこにイチローがいれば、彼が精神的な支えとなる。その存在に守られる。しかし、そのカリスマはもういない。若い選手らは自立が求められる。跳ね返されればそこまで。超えれば、選手として、一皮も二皮も向け、成長する。

 今回の見どころは、実はそこにあって、イチローに頼ることなく優勝を掴んだとき、日本の野球も次に進むことが出来るのかもしれない。

 WBCの開幕まで2週間を切った。侍ジャパンはいよいよ、最後の調整に入る。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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