武藤嘉紀がエゴイスト宣言「ゴールが必要」 17年は地位を確立するための勝負の年

元川悦子

長期離脱で自身を客観視「精神的に強くなった」

昨年は2月に負傷して以来、戦線離脱する期間が長かった武藤。「精神的には強くなった」と振り返る 【写真:アフロ】

 慶應義塾大学4年時の14年、ユース時に在籍したFC東京とプロ契約を結び、マッシモ・フィッカデンディ監督(現サガン鳥栖)の下でゴールを量産。日本代表入り、海外移籍、マインツ1年目のシーズン前半の7ゴールとトントン拍子にスターダムにのし上がってきた武藤は「エリート」「優等生」のイメージが強い選手だった。

 その彼が16年2月のハノーファー戦での右ひざ負傷によって、長く苦しいトンネルに迷い込んだ。今シーズン頭にいったんピッチに戻ったものの、9月のヨーロッパリーグ・FKガバラ戦で再び右ひざを負傷。16年を棒に振ると同時に、マインツで手にしかけていたレギュラーFWの座、日本代表の定位置獲得もフイにしてしまった。

「去年は本当についていなかった。厄年だったし」と本人も苦笑いしたが、一方で「武藤フィーバー」とも言うべきメディアやサポーターの喧噪(けんそう)から離れて、自身を客観視する時間を持てたのも事実。「精神的には強くなりましたよ。落ち着きましたし」と武藤自身も言う通り、以前よりも自然体でサッカーと向き合えるようになった。その結果、点取り屋としての本能を呼び覚ますことができたのだろう。

「アウクスブルク戦もそうだったけれど、最近は試合をしていてもなかなかパスが来ないし、自分で全部やってやろうと思うくらいです。けが明け早々は失敗を恐れながらプレーしていましたけれど、4試合をこなしてコンディションも上がってきましたし、もっとエゴイストになっていいのかなと強く感じます。

(日本代表監督の)ハリル(ハリルホジッチ)も言っていますけれど、日本に強烈なストライカーがいないのは、日本人がエゴイストなところを嫌う傾向にある人種だから。確かに日本人はとても戦術理解力が高いし、真面目だし、監督に歯向かったりしないけれど、自分だけいい顔をして『チームのために』と言っていると、結果的には自分のためにならない。単なる走り屋で終わってしまう。それでは意味がないですよね。やっぱり外国人を見ると、全員がエゴイストの集団。そういう中でやっているから、自分もそうならなといけないと痛感します」と武藤は危機感を募らせる。

結果を残してクラブでも代表でも地位を確立したい

「今年結果を残して、マインツでのポジション、代表の地位も確立できたら最高」と決意を語った 【元川悦子】

 彼がいい意味でエゴイストになり、野性味溢れるストライカーに変貌してゴールを量産すれば、日本サッカー界にとっても朗報だ。3月には18年ワールドカップ(W杯)・ロシア大会アジア最終予選の後半戦スタートとなるUAE戦(23日)、タイ戦(27日)の2連戦も控えている。アルベルト・ザッケローニ監督時代からの攻撃の3枚看板だった本田圭佑、岡崎慎司、香川真司がいずれもクラブで停滞感を拭えていない。最終予選の前半戦をけん引した原口元気、大迫勇也もドイツで奮闘しているが、武藤は「自分もFWの一翼を担いたい」という野心を強めている。

「今の代表は『誰が結果を残すか』という話になってきている。前半戦は原口君とサコ(大迫)君が結果を残しましたけれど、そこに割って入っていかなければいけない。割って入るだけではなくて、そこで活躍しないといけないと思うので。マインツで試合に出られなかったら代表にも呼ばれないと思いますし、すごいプレッシャーですけれど、楽しみたいですね。

 今年は本当に自分にとって勝負の年。W杯を決める年でもありますし、ここで自分が何か残さないと、このままズルズルいってしまうと思うので。もうひと花咲かせるためにも、何が何でも今年結果を残して、マインツでのポジション、代表の地位も確立できたら最高だと思います」

 この野望を実現させるためにも、本人が繰り返している通り、マインツでゴールを奪うところからスタートするしかない。ユースとの練習試合の後、武藤は30分以上、練習場に残ってシュート練習に明け暮れていた。強くミートした形、浮き球など多彩な感触を確かめながら、少しでも精度を上げようと躍起になっていた。常に多くの人に注目されていたFC東京時代であれば、1人で黙々とシュートを蹴り続けることさえ難しい。ある意味、原点に戻って1つ1つ自分の感覚を確かめることで、武藤は再浮上のきっかけを追い求めていたのだろう。

 その成果は、果たして2月18日のブレーメン戦で出るだろうか。マインツの2月から3月にかけての対戦カードはブレーメンの後、レバークーゼン、ボルフスブルク、ダルムシュタット、シャルケと続く。そこで背番号9がストライカーとしての潜在能力をいかんなく発揮し、ゴールを量産すれば、ボージャンとの競争に勝つだけでなく、コルドバが陣取っているエースFWの座も奪い取ることができるかもしれない。もともとは武藤がFWのファーストチョイスで、コルドバはサブだったのだから、結果次第では逆転も十分可能なはずだ。巻き返しを見せ、武藤嘉紀の存在価値をマインツのみならず、ドイツ、そして世界に再認識させること。それを期待してやまない。

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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