ドライビングだけではなかったニコの手腕 王者不在がメルセデスに及ぼす影響

田口浩次

2016年王者に輝き喜びを爆発させるニコ・ロズベルグ。しかしこの5日後に現役引退を発表した 【Getty Images】

 1月23日、F1のボスとも言うべきバーニー・エクレストン氏が、F1を買収した米国のリバティメディアから、名誉会長に指名されたことが発表された。つまり、エクレストン氏の事実上の引退であり、代わりにCEOには20世紀フォックスのチェイス・キャリー氏が引き継ぎ、実働面をけん引するモータースポーツ・マネージングディレクターにはロス・ブラウン氏が、興行面を担当するマネージングディレクター兼コマーシャルオペレーターにショーン・ブラッチス氏が就任した。

 この発表を受け、多くのメディアは、長年F1のトップとして君臨してきたエクレストン氏の解任を、悲劇や事件のように扱ったが、ひとりの元ドライバーが非常に冷静なツイートをした。

「バーニーは偉大な仕事をしてきた。しかし、改革は停滞している。ミスター・キャリー、全力を尽くして、再び僕たちのスポーツを偉大にして欲しい!」と。

 このツイートをした人物こそ、昨年のワールドチャンピオンであり、チャンピオン獲得5日後の2016年12月2日に突然F1引退を発表したニコ・ロズベルグだ。

突然の引退にも「ロズベルグなら……」

 1982年には父ケケが、2016年には父と同じカーナンバー6のマシンでニコがワールドチャンピオンを獲得した。親子二代でのワールドチャンピオンはグラハム・ヒル、デイモン・ヒル親子に続く2人目の快挙であり、二世F1ドライバーでのワールドチャンピオンと言う意味では、デイモン・ヒル、ジャック・ヴィルヌーヴに続く3人目の快挙だ。

 しかし、驚きだったのは、ワールドチャンピオンを獲得してからわずか5日後に、突然F1からの引退を発表したこと。このニュースは世界中を駆け巡ったが、意外にも一部関係者の間では「ロズベルグなら……」という声もあった。

 その中のひとりは、ウィリアムズ時代の元チームメート中嶋一貴。関係者からの連絡で引退のニュースを知った中嶋だったが、そのとき、一部英国メディアでは「ロズベルグがインディやWECに参戦して、世界三大レース(モナコGP、インディ500、ル・マン24時間レース)への挑戦があるのではないか?」という報道がされていたのだが、中嶋は引退にとくに驚くこともなく、「もし本当にそうなら、なかなかやりますね」と、次の挑戦に対しても少し懐疑的な反応だった。

 ロズベルグを知る関係者からすると、彼の目標は父親と同じくワールドチャンピオンを達成することであり、同じように家族を大事にすることだから、とくに引退には驚かなかったのかもしれない。それに、1993年にはアラン・プロストが、ワールドチャンピオンを置き土産にF1を引退していることからも、古参ジャーナリストや関係者からすると、“驚きだがそういうこともある”という受け止め方だった。

真面目一辺倒ではない一面も

 ロズベルグは優等生に見えるが、パーティーなどでは本当に弾けるタイプだ。悪ノリでイタズラもする。以前、シンガポールGPのレース後、ドライバーたちが集まるパーティーで酔っ払っていたロズベルグは、小林可夢偉のスマートフォンを取り上げ、プールに投げ込んだ。たまたま、次のレースが日本GPだったので、可夢偉は帰国後すぐに機種交換に行くことができた。

 ドイツ人らしく(父親はフィンランド人、母親はドイツ人でニコの国籍はドイツ国籍)、酔っ払うと普段の真面目な殻を破ってしまうタイプ。堅物で真面目一辺倒ではないところが、周囲からも好かれる魅力といえるだろう。

 また、チャンピオンを獲得した16年11月27日の翌日に、家族3人での写真をツイートしていて、そのときから引退を示唆していたのと同時に、いつも優しく家族を大切にするロズベルグらしさが現れていた。

 家族を大事にするというエピソードとしては、まだメルセデスでミハエル・シューマッハとチームメートだったとき、日本GPの鈴鹿サーキット入りをサポートする関係者が名古屋駅でロズベルグの到着を待っていると、新幹線から降りてきたのは、ひとり分とは思えないほどの荷物を抱えたロズベルグ。スタッフは「ヴィヴィアン(当時の彼女で後の奥さん)と一緒だと連絡を受けたが?」と問うと、「彼女、コリーナ(シューマッハーの奥さん)に京都旅行を誘われて、そのまま行っちゃったんだ。後から一緒に鈴鹿入りするって……」と一言。彼女の荷物を文句も言わず、先に持ち運びする姿に、スタッフはえらく驚いたと語っていた。

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