「臨機応変」が世界一奪還のキーワード 侍ジャパンがWBCで目指す野球

中島大輔

勝ち抜くにはスモールベースボール

11月10日、メキシコ戦の初回に送りバントを決める秋山 【Getty Images】

 一方の打者陣は、大方の予想通りの顔ぶれだった。改めて出場選手リストを見渡すと、球界を代表する豪華メンバーがそろっている。そのメンツから判断した記者が「スモールベースボールではなく、世界に打ち勝つ野球をするのか」と質問すると、小久保監督はこう答えている。

「打ち勝つよりも、投手力で点を与えない野球。最少失点で切り抜ける野球じゃないと勝てないと思っています、正直。ただメンバー編成からいくと足も速くて、守備もできる選手を集めたというところです。長打でガンガンいこうという発想はありません」

 一見すると打てるメンバーを集めたように感じられるが、行うのはスモールベースボール。実はメキシコとの強化試合初戦で、小久保監督はこうした意思を表明している。1回裏の攻撃で1番・坂本勇人(巨人)が四球で出塁し、2番・秋山に送りバントを命じた場面だ。

「プレミア12では絶対になかった、初回の送りバントです。そういう作戦もあると選手にわかってもらいたかったことと、ピンチをしのいだ後だったので余計に先制点をということでサインを出しました」

 小久保監督の言うように、投手力は侍ジャパン最大の武器だ。だからこそ走者が出たら確実に進め、数少ないチャンスをモノにして接戦をとりにいく。アマチュア野球や高校野球から受け継がれるスモールベースボールこそ、日本が勝ち抜くための戦法だと小久保監督は考えている。

 実際、昨年の強化試合が終わった後にはこんな話をしていた。

「あとは本番になったときに、普段チームではおそらく進塁打が出ない選手に対してもそういうサインが出る可能性があると伝えてきていますので、本番ではそうなると思います」

苦境でベンチが手を打てるか

選手を後押しするベンチワークが勝利には不可欠だ 【Getty Images】

 スモールベースボールをするならバットコントロールの巧みな中村晃(ソフトバンク)や角中勝也(ロッテ)、俊足の西川遥輝(日本ハム)の選出はないのかと思うが、戦い方とメンバーを決めるのは指揮官なので、本番まで1カ月強となったいまはそこに異論を挟むことはしない。

 しかし、過去の国際大会ではホームラン打者がバントを求められ、失敗して流れを失う場面が何度も見られた。仮にそうしたシーンが続いた場合、強攻に切り替えるなど臨機応変に手を打てるだろうか。

 もちろんプレーするのは選手であり、彼らが持てる力を発揮することが、2大会ぶりの優勝を目指すうえで最大のポイントとなる。しかし、現場の選手たちが苦しい場面で、少しでも後押しするようなベンチワークが勝利には不可欠だ。

 短期決戦のなかで調子の良しあしを見極める観察眼と、絶妙なタイミングで勝負手を仕掛けていく決断力。国際大会で勝利するために必要なのは、いわゆる「名将」と言われるような指揮官が備える資質である。プロ野球でチームを率いた経験のない小久保監督は、本番でそうした采配を振ることができるだろうか。

「ともに世界一を取りに行こう」

 自ら選出したメンバーそれぞれに、そう語りかけたという小久保監督。侍ジャパンが世界一奪還を果たすことができるかは、ベンチを中心に臨機応変な戦いを見せられるかにかかっている。

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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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