FC琉球の“最年少社長”が目指すもの 始まる「オール沖縄」への挑戦

上野直彦

FC琉球の発展を県の産業全体の活性化に

キャンプではACLの常連である上海申花との対戦も実現。FC琉球は2−0と勝利を収めた 【©FC RYUKYU】

 異例ずくめの記者会見だったが、そこに日本サッカー協会(JFA)の岩上和道事務総長の姿があった。この種の会見にJFAの要職者が参加する事は極めてまれだ。岩上氏は「立場上、特定のチームを応援することはないので立ち会いです。東アジアサッカー連盟(EAFF)の仕事もしており、公式球を通して倉林さんとは以前より面識がありました。また、私はJリーグの理事でもあります。リーグとFA(サッカー協会)の両輪が協調し合ってこそ、その国のサッカーは発展する。Jクラブも大事ですので、彼のような優秀なビジネスマンが代表に就任することでFC琉球の発展を期待しています」と語った。

 FC琉球の発展はJリーグに限らずJFAにとっても重要なメルクマール(指標)となるが、沖縄のスポーツ産業の最大のポテンシャルは「アジアのハブ・沖縄」の地政学的なメリットだろう。他の産業でも同様のテーマが議論されているが、まだまだ発展途上の段階にある。それを最も実現できるのがスポーツ産業だと言われており、県内で注目を浴びている理由もここにある。倉林氏が会見後に面白い話をしてくれた。

「先日、浦崎(唯昭)副知事にお会いした際に言われた『沖縄は日本では最南端、アジアでは最先端』という言葉がものすごく印象に残ったんです。沖縄のこの教えをクラブの中心として取り入れていきます」

 キャンプ事業を県から受託しているFC琉球は、今年はACL(AFCチャンピオンズリーグ)の常連である中国の上海申花と練習試合を組んだ。荒れた試合となったが2−0で琉球が勝利を収め、上々の滑り出しとなった。ただ、芝の状態を含めて環境やホスピタリティーについては「まだまだ」と倉林氏は指摘する。今後は観光だけでなく、スポーツや医療も加えた「スポーツツーリズム」にも力を入れ、FC琉球の活動を県の産業全体の活性化につなげていく考えだという。

課題は「オール沖縄」の力をどう結集していくか

今後、FC琉球はハンドボールチーム琉球コラソンとの企画も考えているという 【写真:アフロスポーツ】

 先の記者会見で最も多く登場したのは「オール沖縄」という言葉だった。今後、FC琉球は琉球コラソンとの企画も考えているという。ホームゲームの共通チケットなど沖縄における“スポーツ・コングロマリット化(「コングロマリット」とは複合企業の意で多数の業種、企業を統合してできた企業グループのこと)”はますます進んでいくだろうが、オール沖縄の力をどうやって結集していくかが最大の課題となる。

 沖縄はアジアのハブとして交易を拡大し、経済的にも文化的にも成熟をもたらしてきた歴史を持つ。筆者は以前、那覇市にある企業の会議室で沖縄を中心とした東アジア地図を見たことがあるが、上海も台北もジャカルタもハノイも、東京より沖縄の方がはるかに近いのが一目瞭然だった。そういった経済圏への実現に向けて、今後スポーツという強力なコンテンツがメーンになる可能性は極めて高いといえるだろう。

 今回のFC琉球の新たな挑戦以外にも、沖縄ではいくつかのプロジェクトが進行中である。沖縄のスポーツ産業はアジアの大海に向けて、航海を始めている。

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著者プロフィール

兵庫県生まれ。スポーツライター。女子サッカーの長期取材を続けている。またJリーグの育成年代の取材を行っている。『Number』『ZONE』『VOICE』などで執筆。イベントやテレビ・ラジオ番組にも出演。 現在週刊ビッグコミックスピリッツで好評連載中の初のJクラブユースを描く漫画『アオアシ』では取材・原案協力。NPO団体にて女子W杯日本招致活動に務めている。Twitterアカウントは @Nao_Ueno

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