公立校で花園優勝に挑み続ける御所実 「ラグビーは人間性が出るスポーツ」

斉藤健仁

花園ベスト8以上で唯一の公立校

黒いジャージの御所実。伝統のモールを武器に、ベスト4に進出した 【斉藤健仁】

 東福岡(福岡)の「3冠」で幕を閉じた今年度の高校ラグビー。「花園」こと全国高校ラグビーの準決勝で24対25と王者を苦しめたのが、御所実(奈良)だった。私立校が席巻している中、御所実は花園でベスト8以上に残った唯一の公立校で、花園に出場すれば必ず、そのひたむきなラグビーゆえに記憶に残るチームの一つとなっている。

 特に今年度のチームは身長180cm台の選手が1人と決して大きくはないが、伝統のモールを軸とした試合運びが巧みで、単独チームとして出場した国体では奈良県として32年ぶり2度目の優勝も経験し、3校しかないAシードに選出されていた。
 一昨年度の御所実は、現在、帝京大WTBの竹山晃暉らがおり、慶応(神奈川)、国学院久我山(東京)などを破り、決勝に進出したが、東福岡に敗れて3度目の準優勝に終わった。だが昨年度は、花園予選決勝で、全国制覇6度のライバルの天理に5対6で苦杯をなめて出場することもかなわなかった。つまり新チームのスタートは一昨年の11月と他の強豪と比べて早かった。

「ディフェンスを仕上げようと思いました」

1人は下半身に、1人は上半身に入るダブルタックルで、身体能力の高い東福岡に対抗 【斉藤健仁】

 御所実を率いて28年目となる竹田寛行監督(56)こう懐古する。「公立校なので、毎年いい選手が来てくれるわけではない。(昨年、天理に)1点差で負けたとき、ほとんど今年度の3年生が出ていたのでディフェンスを仕上げようと思いました」

 フィジカルトレーニングをしつつ、朝、昼、だけでなく授業の間や練習前後などの補食を含めて食事を摂り、体を大きくしながらも、前に出るディフェンス、起き上がるリロードとバッキングアップのはやさは間違いなく高校No.1だった。東福岡にこそ4トライを奪われたが、準々決勝までの失トライは1。相手の姿勢が高ければ、ボールに絡んでモールに持ち込み、停滞させてターンオーバーを狙う。東福岡戦でも4回、モールアンプレアブル(モールが停止した場合、相手ボールのスクラムで再開)を成功させた。

 今年度のチームは、主将SO北村将大を筆頭に、一昨年の花園決勝を経験していた5人のメンバーの存在が大きかった。北村はFB岡村晃司とともにゲームを支配。モールだけに固執することなく、空いているスペースがあればしっかり外にパスを回し、相手のディフェンスの前に攻撃が停滞すると、すかさずコーナーへキックしていた。

 兵庫出身のSO北村は言う。「自分が持っていくのではなくコントロールしようとしていました。10番だけでなく、2、8、15と中心線の選手とコミュニケーションしながら、左右とエリアのバランスを取っていました。監督と、自分たちの試合だけでなく、トップリーグやスーパーラグビーを見ながら『こういう状況だから、こうしよう』と話すことでイメージが湧いてきました」

奈良県のバックアップで部員増、人工芝グラウンドも

宮崎県から入学した1年生CTBのメイン平 【斉藤健仁】

 チームを見事に鍛えており、菊谷崇(キヤノン)ら日本代表選手も輩出している御所実を奈良県もバックアップしている。

 御所実には全国に4校しかない薬品科学科があり、従来から、この学科のみは全国から受験が可能で、竹田監督が自宅を寮に改造し、県外の選手を受け入れてきた。さらに3年前から、奈良県はスポーツを通じた地域の活性化と特色作りのため、御所実のラグビー部など全国的強豪の4校5つの部活動に対し、各学科の定員の10%を上限としながらも、全国からの受験を可能にした。

 現在、半数ほどは県外出身者となった。1年生ながら見事な突破を見せていたCTBメイン平は宮崎県出身。「やるなら強豪校で上を目指したい。あと公立校だったので」と御所実の門を叩いた一人。上記の制度を利用して、環境緑地科に進学してラグビーに精を出す日々だ。さらに昨年は寮が新しくなったこともあり、1年生は41人と大所帯となった。

 また昨年5月、グラウンドは県内の公立校としては初めて人工芝となる。総工費は約2億円。雨もほとんど気にせずに練習ができるようになり、ジャージも汚れなくなった。「ケガも減りましたし、練習時間が取れるようになりました。地域のみなさんのおかげ」と副将FL城間賢が言えば、竹田監督も「知事のおかげ」と感謝の言葉を忘れない。

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著者プロフィール

スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーとサッカーを中心に執筆。エディー・ジャパンのテストマッチ全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」、「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「ラグビー「観戦力」が高まる」(東邦出版)、「田中史朗と堀江翔太が日本代表に欠かせない本当の理由」(ガイドワークス)、「ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「エディー・ジョーンズ4年間の軌跡―」(ベースボール・マガジン社)、「高校ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「ラグビー語辞典」(誠文堂新光社)、「はじめてでもよく分かるラグビー観戦入門」(海竜社)など著書多数。

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