優勝争いは下北沢成徳と金蘭会が軸 タレント豊富な春高バレー女子の見どころ

田中夕子

前回優勝の下北沢成徳は夏のインターハイを制覇。今大会も優勝候補だ 【写真は共同】

 今年も「春の高校バレー第69回全日本高等学校選手権大会(春高)」が4日に開幕し、8日の決勝戦まで高校日本一の座を懸けた戦いが東京体育館で行われる。

 今大会に出場する世代には2020年の東京五輪での活躍が期待される選手を強化指定する「Team CORE」に選出された選手がおり、日本バレーボール界の未来を担う逸材として期待を寄せられる選手も多く出場する。今回は「Team CORE」女子の監督である安保澄(きよし)さんに注目校や注目選手、大会の見どころを語ってもらった。

ハイレベルな東京予選で圧勝した下北沢成徳

下北沢成徳は(左から)堀江美志、山崎のの花、 山口珠李ら実力者がそろう(写真は前回大会) 【写真:アフロスポーツ】

 インターハイを制した下北沢成徳(東京)と、国体を制した金蘭会(大阪)。この2チームが実力を持っているのは間違いない。大方の予想通り、両校が優勝争いの軸になるのではないでしょうか。

 とはいえ、各都道府県を勝ち抜き、春高出場を決めた高校はどこも強豪ばかり。下北沢成徳、金蘭会の2強にストップをかけるのは誠英(山口)、就実(岡山)、共栄学園、八王子実践(共に東京)、福井工大福井(福井)、京都橘(京都)、九州文化学園(長崎)、鹿児島女子(鹿児島)、大阪国際滝井(大阪)、東九州龍谷(大分)。これらの強豪校に加え、インターハイでベスト8に入った城南(徳島)も非常に力のあるチームで、大いにチャンスはある。非常に見応えのある試合が続く大会になりそうです。

 各都道府県予選を勝ち抜くのが年々難しくなり、厳しい状況を強いられる中、最も熾烈な争いが繰り広げられるのが東京です。開催地代表として3校が出場できますが、2016年の春高で東京の3チームがベスト4、さらに下北沢成徳と八王子実践が決勝を戦ったように、まさに全国トップレベル、3つの椅子を争い非常にハイレベルな戦いが繰り広げられています。

 そんな中、今年の東京予選で、圧勝と言っても過言ではない強さを発揮したのが下北沢成徳。エースの黒後愛選手が注目されていますが、黒後選手だけでなく、非常にメンバーが充実しています。アジアジュニア選手権にも出場したレフトの堀江美志、ミドルブロッカー(MB)の山口珠李の3人を中心に、レフトの石川真佑、セッターの山崎のの花、リベロの岩澤実育とすべてのポジションが手堅い。ただ単にタレントが豊富なだけでなく、個の力を十分に発揮させる小川良樹先生の将来を見据えた選手育成も素晴らしい。高い個のスキルがチームとして非常に良い形で機能しています。

 3年間鍛え上げられてきた強烈なサーブ、スキのないブロック、フロアディフェンスも堅く、トランジションアタックでハイボールスパイクをしっかりとたたき込む能力も高校のレベルでは秀でています。まさに、トレーニングや日々の練習に対して高い意識で臨んでいる成果と言えるのではないでしょうか。

大きな可能性を感じさせる黒後愛

下北沢成徳のエース黒後愛(中央)には、安保監督も大きな期待を寄せる(写真は前回大会) 【坂本清】

 高いチーム力の中で、中心となる3選手もやはり高校生の中ではひとつ抜きんでた力を持っています。主将も務める黒後選手は、サーブ、ブロック、ディグ(スパイクレシーブ)、レセプション(サーブレシーブ)、セッティング、スパイクとすべてにわたって洗練された技術を持っていて、非常にレベルが高い。さらに今季はゲームの流れをつかんで積極的にチームメートに指示を出す。叱咤(しった)激励するなどチームを引っ張るリーダーシップも磨かれました。攻撃においては、ブロックアウトや相手のブロックの裏をかくようなスパイクなど、細かいプレーも抜群にうまい選手で、守備においては、サーブレシーブ技術が卓越している。春高にとどまらず、将来を考えるうえでも大きな可能性を感じさせてくれる選手であるのは間違いありません。

 MBの山口選手は跳躍力を生かしたブロックが武器であり、ただ高く跳ぶだけでなく、さまざまな情報を読み取る力、トスが上がったところへの素早い反応や移動スピードなどブロックに関する技術は、今大会の出場選手の中でもトップレベルではないでしょうか。攻撃面においても、ミドルからに限らず、レフトからもライトからもハイボールをしっかりたたける。将来的にはウイングスパイカー(WS)に転向しても十分にやっていける可能性を持った選手です。

 WSの堀江選手は、レフトサイドからのハイボールスパイクを力強く相手コートの深い位置に打つことができる選手です。大抵の場合、高校生に限らずVリーグの選手でも鋭角にスパイクを落とすことが多い中、堀江選手は奥に強いボールを打つ技術を備えている。さらにライトからの速い攻撃も得意としていますし、対応力も高い。黒後選手、山口選手と同様に将来が楽しみな選手です。

手堅いバレーが強みの金蘭会

宮部藍梨(5番)に注目が集まるが、手堅いバレーが金蘭会の強み(写真は前回大会) 【坂本清】

 対抗馬である金蘭会。全日本にも選出された宮部藍梨選手ばかりが注目されがちですが、宮部選手だけでなく下北沢成徳と同様に非常に選手層の厚いチームです。中でも「いぶし銀」と言うべき存在で、チームにとって欠かせないのがMBの島田美紅と、WSの林琴奈、1年生の曽我啓菜。この3名は勝負どころを逃がさず、勝利につながるための丁寧なプレーができる。ゲームインテリジェンスの高いプレーをする選手です。もともと金蘭会はブロックとレシーブの関係からなるフロアディフェンスが非常に堅く、ブロック戦術も工夫しています。相手チームからすれば「なかなか思い通りに決めさせてもらえない」という印象を持つはずです。相手チームの思い通りの展開にさせないよう、ブロック、ディフェンスで阻む。試合巧者とも言うべき、非常に手堅いバレーを強みとするのが金蘭会です。

 そんなチームの中で、1年生の頃からエースとして活躍してきた宮部選手。ケガが続き、プレーすることもできない苦しい期間が続き、本人も非常に悩み、もがいた1年でした。それでも国体の決勝、下北沢成徳との戦いではミドルエリアでブロックに跳んでからレフトに開いて打つなど、チームのシステムにのっとりさまざまな役割を果たしていました。金蘭会の池条義則先生は適材適所に選手を配置し、良いところを引き出す起用法やチーム戦術を組むことに非常に長けておられます。春高ではどんなシステムを組んで臨むのか。そこで宮部選手が期待通り、いや期待以上の活躍ができるかどうか、私自身も期待しています。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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