「勘違い」から脱し、急成長した東福岡 屈指のタレントで選手権連覇に挑む

松尾祐希

インターハイでの2回戦敗退、屈辱を味わう

 迎えた新シーズン、開幕3連勝を飾るなど高円宮杯U−18プレミアリーグWESTで結果を残したことはチームに自信を与えた。ただ、その好成績は結果的にチームの問題をぼやかすこととなり、夏のインターハイでは屈辱を味わうことになった。

 シードのため初戦となった昌平との2回戦。初出場の新興勢力から2点を先取するまでは良かったが、試合を振り出しに戻されると最後はアディショナルタイムの逆転弾でまさかの敗北を喫した。「前日に昌平と中津東の試合を見て、普通にやれば勝てるという話をしていたので、そこが一番よくなかった」と鍬先は試合を振り返った。

 今でこそ全国区になったMF松本泰志(サンフレッチェ広島内定)やMF針谷岳晃(ジュビロ磐田内定)の存在を当時は脅威に感じておらず、「ボールを持つからつぶそうというぐらいの気持ちでいた」と鍬先が語るように、過信が足をすくわれる原因となった。

 試合後、選手たちはまさかの敗戦に極限まで落ち込んだ。帰路も足取りは重く、話し合いができる雰囲気は皆無。そこで見かねたコーチ陣はその日の夜に選手全員を集めてミーティングを実施した。倉橋宏和トレーナーが昌平戦の試合映像を素早く編集し、まずは敗戦を受け止めるべく試合内容をみんなで確認した。

「敗戦の原因は日頃の練習への取り組み方、練習に対する気持ちの持ちようであるという話をしてから、自分たちはやっていないことがいっぱいあると認識しました」(FW藤井一輝)

 選手権の前年度王者はこの振り返りを通じて、ようやく自分たちの勘違いに気付いた。話し合いは2時間を超え、監督たちが去ったあとも選手たちだけで1時間以上も討論を続けた。意見を出し尽くしたことで、ミーティングが終わる頃には自然と気持ちが切り替わった。このミーティングをきっかけにチームの雰囲気は一気に変貌する。

「高校生活の中で一番きつい」トレーニングに打ち込む

敗戦後、チームは小田(写真)が「高校生活の中で一番きつかった」と語るほど、トレーニングに打ち込んだ 【写真は共同】

 福岡に帰った後、選手たちは地獄のフィジカルトレーニングから再スタートを切った。1週間ほど続いた走りのメニュー。炎天下での追い込みは過酷を極め、嘔吐(おうと)してしまう者も少なくなかった。体力に自信がある藤川ですら音を上げたが、選手たちの中では「身体面でのきついトレーニングは、試合に負けた自分たちには必要なことでした。やらないといけないと割り切れていた」(藤井)という。

 誰もが、やらされるのではなく、自らの意思で「高校生活の中で一番きつかった」(小田)というトレーニングに取り組んだ。その後の練習でも変化は見られた。練習前には1日の目標を円陣で確認してからトレーニングを開始する新たな試みも始めた。練習の質も上がり、チーム全体に熱は波及した。県予選決勝でベンチ外になった選手たちはレギュラーメンバーよりも先に会場入りする気概を見せ、試合前には練習が始まる前から、男子校らしい野太い声でげきを飛ばす。夏の経験を経て、チームはようやく勘違いから脱出することに成功した。

 昨年の2冠に貢献した主将の児玉慎太郎と卒業後は鹿島アントラーズでプレーする小田が構える最終ライン。アンカーの位置でゲームを組み立てる昨年度の高校選抜にも選ばれた鍬先、サイドハーフで勇猛果敢なプレーを見せる期待の2年生アタッカーの福田湧矢に加え、トップ下には藤川とチームで絶対的な存在へと成長を遂げたガンバ大阪内定の?江麗央が並ぶ。さらには「(藤川)虎太朗がいない間、随分と成長した。ゲームをコントロールできるようになったし、うちとしては大きな収穫」と志波総監督も認めた田尻京太郎も後に控える盤石ぶりだ。

 最前線には重量級ストライカーの藤井と快足ゴールゲッター佐藤凌我がスタンバイしており、全てのポジションに年代屈指のタレントがそろっている。選手権連覇に向けては、昨年の先輩たちにメンタル面でさらに近づくことができるかがポイントとなる。

「2年前みたいなタレント(中島賢星/横浜F・マリノスや増山朝陽/ヴィッセル神戸など)がそろっている中で、去年のようなまとまりの良さやハードワークの部分は足りないような気がしている」と森重監督は物足りなさを感じているようだが、夏から比べると確実にタフさは増した。

 1月2日に行われる2回戦の相手は愛知県代表の東邦高校。夏に学んだことが本物であれば、相手に隙を見せることもないだろう。夏から急成長を遂げたチームは十分に連覇を狙えるチームに仕上がった。昨年の先輩たちに肩を並べるためにも、最後の冬に花を咲かせるだけだ。

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著者プロフィール

1987年、福岡県生まれ。幼稚園から中学までサッカー部に所属。その後、高校サッカーの名門東福岡高校へ進学するも、高校時代は書道部に在籍する。大学時代はADとしてラジオ局のアルバイトに勤しむ。卒業後はサッカー専門誌『エルゴラッソ』のジェフ千葉担当や『サッカーダイジェスト』の編集部に籍を置き、2019年6月からフリーランスに。現在は育成年代や世代別代表を中心に取材を続けている。

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