日曜オフを実践する近大附属が16強 バスケだけではない部活のあり方に一石

平野貴也

15人をフル活用する「3段構え」

「日曜オフ」を実践しながら全国大会16強入りを果たした近大附属(緑) 【加藤よしお】

 クリスマスから年末にかけて、JR千駄ヶ谷駅の目の前にある東京体育館に、バスケットボールを愛する高校生が集結する。「ウインターカップ」と呼ばれる、全国の精鋭が集結する大会が行われるからだ。正式名称は、全国高校バスケットボール選抜優勝大会。各都道府県の王者、夏の全国高校総体(インターハイ)上位2校、開催地である東京からもう1校。男女合計100チームが参加し、同じ会場で試合が行われる一大イベントだ。個性豊かなラインナップの中で、部活動のあり方に一石を投じる取り組みを行っているチームがあった。男子でベスト16に入った近畿大学附属(大阪)だ。

 部活動のあり方についての話をする前に、まず、今大会で見せた彼らのユニークな戦い方を紹介したい。コート上の5人全員を一気に交代させること自体は珍しくないのだが、それを頻繁に行っていた。まずベストメンバーで臨み、疲労が見えたり、試合のペースを相手に握られたりすると、すかさず全員交代でサブメンバーが投入され、体力の消耗を考慮せずに激しいディフェンスを仕掛けて相手のペースを乱した。ここまでは、ツープラトンと呼ばれるシステムで珍しくないが、彼らは、来年のチームをベースにした攻撃のクオリティーの高いメンバー編成まで用意。先発メンバーとは特徴の異なるオフェンスを組み立て、相手を惑わせた。先発と控えの15人をフル活用する「3段構え」で試合のペースをかき回していたのだ。長身で柔らかさもあるUー18日本代表の西野曜という大黒柱の存在が大きかったが、彼だけに頼ることなく、全員の力をフル活用して健闘していた。

大幅に増やしたバスケット以外の時間

 3回戦で帝京長岡(新潟)に敗れ、前回のベスト8に並ぶことはできなかったが、主将の中村幸介は「点差が離れても、笑ってやろうという話をして最後まで頑張ることができた。気持ちに余裕を持ちながらバスケットをしてきたからだと思う」と話していた。一生懸命でありながら、どこか肩の力が抜けたチームでもあった。その背景には、指導者の考え方がある。大森コーチは「しんどいことをやった方が強いとかすごいという考え方は、ブラック企業問題に通じる話になってしまうところがある。文句を言わずに耐えながら取り組むことを経験することも大事ではあるけれど、そればかりにはさせたくない」と話した。

 指導者が先導して選手を頑張らせて、勝ちに行く。そればかりが部活動ではない。「彼らは、高校生。バスケットのプロじゃない。部活動を通じて今後に必要なことを学んでほしいし、バスケットを好きになってほしい」と大森コーチは言う。もちろん、やるからには勝ちたいという思いもある。生活の100パーセントを部活動に投じるという考え方ではなく、バスケットは学業やオフを含めた生活の中の一部であり、その中で100パーセントを目指すという考え方に立っている。今季は、思い切ってバスケット以外に目を向ける時間を大幅に増やした。これが、部活動のあり方に関わる話につながる。

 具体的には、今年から日曜日を完全オフにした。強豪校としては画期的だ。さらに、各選手が1年に10回は自由に休みを取ることができる年休制度も採用した。着目したのは「オフの効果」で、選手に気持ちのメリハリをつけさせる狙いだ。昨年までは最も練習時間の長い日曜日の翌日、つまり月曜日をオフにする一般的なパターンだった。

 しかし、実態を見れば7時間も授業があり、解放されるのは夕方。オフと言っても体を休める程度の時間しかなく、自由が利かない。対照的に、日曜日がオフになれば通学時間も省けて、1日をフル活用できる。自由に使えるオフをどう過ごすかと楽しく考えることができるため、気持ちに余裕が生まれた。そして「オフに向かってモチベーションが上がる」(中村主将)雰囲気が生まれ、自由に休める権利を手にした上で練習に参加するのだから集中して臨むという姿勢が醸成された。練習の時間は減ったが、質は100パーセントに近付いていった。

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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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