過酷な環境でも揺るがない旭川実業の信念 「全国レベル」の力を持ち続けるために

安藤隆人

5度目の選手権に挑む道内屈指の実力校

4年ぶり5度目の選手権出場を決めた旭川実業高。北海道外への遠征を積極的に行いながら、研さんを積んでいる 【安藤隆人】

 極寒の地・北海道の中央部に位置し、豪雪と寒さの厳しい地域の1つとして知られている旭川市に旭川実業高校はある。今回、実に4年ぶり5度目の選手権出場を果たした旭川実業は、2012年には北海道の高校サッカーチームで唯一、高円宮杯プレミアリーグイーストに参戦した経歴を持つ、道内屈指の実力校だ。

 チームを率いる富居徹雄監督はボールを保持しながら、したたかにゴールを狙うサッカーを標ぼうし、旭川実業を全国に通用するチームに仕立てた。冬の間は体育館で練習を行い、狭い局面の打開力を身に付ける。雪が解けたらフルコートに落とし込み、道外に積極的に遠征して、全国で戦えるチームを作り上げていった。

「もちろん、北海道内を勝ち抜くことは重要ですが、やっぱり道外の強豪チームに胸を借りることで、自分たちが目指すべき全国のレベルを知ることができる。どうしても道内だけではそれを知ることや、自分たちの立ち位置をリアルに感じることができない。どんどん積極的に外に行くことが必要だし、北海道全体のレベルをもっと上げたいと思っている」(富居監督)

 旭川実業は常に「全国レベル」の意識を抱き続けている。

 チームにやってくる選手たちのほとんどが北海道内の出身であり、コンサドーレ札幌の下部組織である旭川U−15、札幌U−15やSSS札幌スクール、アンフィニMAKI.FCなどの名門クラブに所属していた選手が多数在籍する。また、スプレッド・イーグルFC函館など、北海道内で鍛え上げられた選手も多い。彼らが積極的に道外に出て試合をこなし、全国レベルを体感し、北海道に戻ってトレーニングに励み、また道外へ出て経験を積む。この繰り返しの中で、彼らは研さんを重ねている。

緑のピッチを求めてのバス移動が始まる

 4年ぶりの選手権に向けて、旭川実業は道外での調整に余念がない。今年の旭川市は、例年より2週間以上早く積雪を記録し、その量はすさまじいものがあった。富居監督も「ちょっとびっくりしましたね。選手権の道予選が終わった直後に(雪が)降り出しました。グラウンドがすぐに真っ白になって、練習ができる状態ではなかった」と振り返る。

 例年にない状況に大きく戸惑ったが、すぐに体育館での練習、そして緑のピッチを求めてのバス移動が始まった。同じ北海道内とはいえ、比較的積雪が少ない地域も存在する。札幌市と岩見沢市、苫小牧市がそれに当たる。

 旭川実業は体育館での練習をしない日は、チームバスを走らせて、片道1時間半かけて岩見沢市の人工芝グラウンドに向かう。あるいは片道2時間の札幌の人工芝グラウンド、片道3時間の苫小牧の人工芝グラウンドに出向いて練習を行い、再び同じ時間を掛けて旭川に戻る日々を送っている。

 それが2週間といえど、例年より早まったことが、彼らにどれだけの負担を強いることになるのかは想像に難くないだろう。

「正直、もう慣れていますね。冬になったら、そうなるのは仕方がないんです。もうみんな受け入れています」

 3年生MF幸田玄は当然のようにこう語る。彼にこの話を聞いたのは、12月14日のことだった。場所は千葉県船橋市。旭川から実に1200キロ近く離れた場所だ。そして、この船橋市の人工芝グラウンドの駐車場に、チームカラーのエンジ色に染められた1台のバスが止まっていた。バスの車体には白い文字で「旭川実業高校サッカー部」と書かれている。

 そう、彼らはここまでチームバスでやってきたのだ。経路はこうだ。まず旭川実業から3時間かけ、苫小牧市へ。苫小牧からフェリーに乗って一晩かけて仙台港に到着すると、仙台から福島県郡山市に寄り、同じく選手権に出場する尚志高校などと練習試合。その後、千葉県検見川市でミニ合宿を敢行し、船橋市にやって来た。

 船橋での目的は選手権出場校である市立船橋との練習試合だった。旭川実業は今年のインターハイ王者と、ベストメンバー同士で激しい戦いを繰り広げた。長距離移動と積極的な「全国レベルの体感」。そこには富居監督の信念を受け止め、プレーで実践する選手の姿があった。

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著者プロフィール

1978年2月9日生まれ、岐阜県出身。5年半勤めていた銀行を辞め単身上京してフリーの道へ。高校、大学、Jリーグ、日本代表、海外サッカーと幅広く取材し、これまで取材で訪問した国は35を超える。2013年5月から2014年5月まで週刊少年ジャンプで『蹴ジャン!』を1年連載。2015年12月からNumberWebで『ユース教授のサッカージャーナル』を連載中。他多数媒体に寄稿し、全国の高校、大学で年10回近くの講演活動も行っている。本の著作・共同制作は12作、代表作は『走り続ける才能たち』(実業之日本社)、『15歳』、『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、『ムサシと武蔵』、『ドーハの歓喜』(4作とも徳間書店)。東海学生サッカーリーグ2部の名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクター

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