6週間の中断期間を経てつかんだ4強 天皇杯漫遊記2016 横浜FM対G大阪

宇都宮徹壱

3年ぶりの優勝か、前人未到の3連覇か

クラブW杯決勝から9日後の日産スタジアムは、どこかまったりした空気感が横溢していた 【宇都宮徹壱】

 街中がクリスマスソングで溢れ、サンタクロース姿の店員をあちこちで見かける12月24日、天皇杯の準々決勝4試合が各地で行われた。この日、私がチョイスしたカードは横浜F・マリノス対ガンバ大阪。共に「名門」「ビッグクラブ」と呼ばれる両チームだが、前者はJ1総合10位、後者は同4位。いずれも今季のJリーグはチャンピオンシップ(CS)に絡むことなく、11月3日でレギュラーシーズンを終えている。

 その後、11月9日と12日に天皇杯のラウンド16が行われ、G大阪は清水エスパルスに、そして横浜FMはアルビレックス新潟に、いずれも1−0で勝利してベスト8に進出。両者とも、公式戦は実に1カ月半ぶりである。その間、CSがあったりクラブワールドカップ(W杯)があったりで、天皇杯はどこが勝ち残っているのか、当事者以外はあまり覚えていなかったのではないか。私自身、ラウンド16は9日のFC東京対Honda FCを取材したのだが(2−1でFC東京が勝利)、その日(現地時間8日)は米国大統領選でドナルド・トランプ候補の当選が決まった「歴史的な一日」であった。あの日をもって世界が激変したことを思うと、やはり随分と昔のことのように思えてならない。

 キックオフ1時間前の昼ごろ、試合会場の日産スタジアムに到着。すでに両チームのサポーターが集結しつつあるのだが、どこかまったりとした空気感が横溢(おういつ)しているように感じられる。日産スタジアムといえば、ここでレアル・マドリーと鹿島アントラーズによるクラブW杯ファイナルが行われたのは、わずか6日前のことだ。日曜夜に行われたクラブナンバーワンを決めるファイナルと、土曜昼に開催されるカップ戦の準々決勝。同じスタジアムでも、時間帯やカードによって、まるで現場感が違って感じられる。そうした違いが感じられるのも、スタジアム観戦の楽しみのひとつだ。

 リーグ戦とポストシーズンのスケジュールが優先され、何やら「おまけ」のような日程になってしまっている天皇杯。とはいえ、今日の勝利の先の先には元日の決勝があり、ACL(AFCチャンピオンズリーグ)の舞台があり、アジアの向こう側にはクラブW杯の舞台が待っている。CSとクラブW杯を傍観者として眺めていた両チームの選手たちにとり、アジアへの道が開かれる天皇杯は非常に重要な一戦だ。果たして準決勝に進出するのは、3年ぶりの天皇杯優勝を目指す横浜FMか、それとも3年連続の天皇杯優勝を吹田スタジアムで決めたいG大阪か。13時04分、キックオフのホイッスルが鳴る。

天野の「幻のゴール」と終了間際の決勝弾

後半23分のシュートは「幻のゴール」に終わった天野だが、終了間際に決勝弾をたたき込んだ 【写真:アフロスポーツ】

 この日の横浜FMは、左ひざの故障のため3カ月戦列を離れていた中村俊輔がベンチ入り(後半42分に出場)。一方、G大阪は守護神の東口順昭が右足首捻挫のため欠場。代わって35歳のベテラン、藤ヶ谷陽介がゴールマウスを守る。横浜FMは開始1分に前田直輝がドリブルからシュートを放ち、3分には天野が直接FKを狙う。対するG大阪も、7分にアデミウソンの右からのクロスに藤本淳吾がボレーで反応。序盤から激しい攻防──というよりも、どちらも試合感の欠如からピンチを招いているように感じられた。

 前半は両者がチャンスを作るものの0−0で終了。G大阪の長谷川健太監督は「後半は自分たちが押し込む展開を作りたかった」として、トップ下に起用していた遠藤保仁をアンカーに下げ、システムを4−2−3−1から4−1−4−1に変更する。しかし、均衡を破ったのは横浜FMであった。後半18分、再三にわたり右サイドをドリブルで仕掛ける齋藤学を、金正也(キム・ジョンヤ)がペナルティーエリア内で倒してしまいPKの判定。これを齋藤自身がゴール左隅に決めて、横浜FMが先制する(齋藤がPKを蹴るのは、横浜FMでは初めてだそうだ)。

 G大阪は後半21分、金と藤本を下げて長沢駿と大森晃太郎を投入し、より攻撃的にシフトする。問題のシーンが起こったのは、その2分後。横浜FMの天野がペナルティーエリア手前から左足で強烈なシュートを見舞い、弾道はそのままゴール右に突き刺さった。決定的な追加点になるかと思われたが、ここで副審のフラッグが上がる。主審は副審に駆け寄り、確認をした上でオフサイドの判定。ポイントは天野がシュートを打った瞬間、オフサイドポジションにいたマルティノスがプレーに関与したか否かである。リプレー映像を見ると、オフサイドと断じるのは厳しいようにも感じられる。が、天野のシュートを避けようとしているマルティノスの素振りが、あるいは「関与」に感じられたのかもしれない。

 この判定で命拾いをしたG大阪は、アデミウソンや倉田秋を中心に一気に攻勢を強めてゆく。対する横浜FMは、守備陣が身を投げ出すようにして、G大阪のシュートをことごとくブロック。しかし後半42分、遠藤の左CKからこぼれ球を今野泰幸が右足で豪快に決め、土壇場でG大阪が同点に追いついた。提示されたアディショナルタイムは、何と6分。このまま延長戦に突入かと思われた、まさに45+6分、前田からの右からの折り返しに、天野が巧みなトラップを挟んで左足を振り抜く。今度はフラッグが上がらない、文句なしのゴラッソ! ラウンド16の新潟戦に続く、終了間際での天野の決勝ゴールにより、横浜FMは3大会ぶりの準決勝進出を果たした。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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