マリー、2016年に実を結んだ数々の努力 杉山愛コラム「愛’s EYE」

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過密日程でのプレーを支えた別格の体力

世界ランク1位、ATPファイナルズ優勝、五輪連覇……。2016年、マリーはまさに大輪の華を咲かせた 【写真:ロイター/アフロ】

 2016年シーズンのトピックスに欠かせない出来事は、アンディ・マリー(イギリス)の初のATPランキング1位獲得です。特にシーズン中盤から勢いを増して、11月に初めてナンバーワンになりました。

 シーズン前半戦はノバク・ジョコビッチ(セルビア)が優勢で、今年も彼の年になりそうだなと印象づけられていたのですが、全仏の優勝で生涯グランドスラムを達成したあと、以前のような成績を残せなくなりました。やはり達成感が影響したのだと思います。手首など、けがもありました。多くの試合数をこなしてきたことで体への負担も大きかったでしょう。故障で思うように練習も積めず、試合にも出ることができなかったりというので、ジョコビッチは勢いを失いました。

 その隙に……と言ったら申し訳ないのですが、時期を逃さずにマリーが出てきました。その前から安定した成績を出していましたが、特にシーズン後半戦の猛チャージが光りました。ウィンブルドンの優勝に続き、リオデジャネイロ五輪シングルスでも圧倒的な強さを見せて金メダルを獲得しました。全米では錦織圭選手に敗れてベスト8でしたが、それ以外はほとんど優勝か準優勝。最終戦のATPワールドツアー・ファイナルズでも優勝し、最終ランキングでも1位となりました。

 彼はもともと体格に恵まれていますが、それに加え、トレーニングで培ったフィジカルが今の地位を築いた大きな要因です。最近のことではなく、私がツアーにいる頃から、負荷の高い体幹トレーニングに取り組むなど、ストイックな鍛え方をしている姿を見てきました。
 16年は五輪イヤーということで、ただでさえ過密日程のツアーが、さらに大変な1年でした。その中で、彼の持ち味であるフィジカルの強さが際立ちました。ほかの男子プレーヤーからも「体力がある」と言われるほど、彼の体力、エンジンの大きさは別格なのですが、それを生かし、シーズンをフルに戦って勝ち取った1位でした。

攻撃スタイルの変化、コーチ達とのチーム力

今夏のリオデジャネイロ五輪。決勝ではデルポトロ(アルゼンチン)に勝利し、テニス史上初の連覇を成し遂げた 【写真:ロイター/アフロ】

 プレースタイル的には、今でこそサーブ力があって、フィジカルを生かした力強いプレーを見せていますが、少し前までは派手さがなく、私たちから見ても「もっと攻められるのに」というくらい、攻めに入るタイミングが遅い選手でした。
 その選手にフィットするプレースタイルというのは、性格や持っている素質にもかかわることで、彼はもともと、じっくりやりたいタイプです。超攻撃型の選手は放っておいてもガンガン行くのですが、彼のベースはそうではなく、トップ選手の中では攻めるタイミングが遅いほうなのです。

 ところが彼は、もっと攻めるぞというのを自分に課したのだと思います。最初は心地悪さを感じたと思うのですが、リターンからの攻撃や、早い段階での仕掛けを試み、特に(今年前半までコーチを務めた)アメリ・モレスモーさんと一緒にトライしたのです。それが今、形となっているのだと思います。取り組んできたスタイルがしっくりくるようになった、自分のものにしたという感じが見受けられます。

 「チーム力」も光りました。シーズン途中にモレスモーさんからイワン・レンドルさんにコーチが代わりましたが、特にシーズン後半戦の戦いで、レンドルさんとのワークが一番しっくりくるんだなというのを証明しました。もうひとりのジェイミー・デルガドコーチは、マリーにとって仲間感覚で接することができる存在なのだと思います。ストイックさの中にも少しホッとできる要素は必要なので、その意味でもチームのバランスの良さを感じ取れます。

 フィジカルと技術、戦術、そしてチーム力と、まさに総合力で勝ち取ったチャンピオンの座という印象です。
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