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リベロで磨きがかかった長谷部の戦術眼
百戦錬磨のベテランが開拓する新境地

随所に見られたゴールを意識したプレー

堅守を誇るチームにおいて、長谷部は攻撃の重要性を理解している
堅守を誇るチームにおいて、長谷部は攻撃の重要性を理解している【写真:アフロ】

「ただいろんなポジションをこなすプレーではなく、チームが勝つために貢献できるプレーを求めたい。もう1段階上に行くには、自分で求めていかなきゃいけないですからね。確かに本職じゃない仕事はハードルが高いけれど、『だからしょうがない』と考えてしまったら、それ以上は絶対に望めないので」と本人も語気を強めたが、何をやるにしても平均以上のプラスアルファが必要だと長谷部は強く認識しているのだ。


 このように絶対に妥協を許さず、あくまで理想を追求し続けるメンタリティーは、現役時代のニコ・コバチ監督を彷ふつさせる部分が少なくない。指揮官自身もそう受け止め、絶大な信頼を寄せているからこそ、チームの心臓とも言える重責をあえてこの男に託しているに違いない。


 最後尾に陣取って守備面で新境地を開拓しつつある中でも、長谷部はボランチでプレーする時と同じように、攻撃面でインパクトを残さなければならないとも感じている。実際、ホッフェンハイム戦でも、前線に上がって組み立てに参加したり、後半途中からハリス・セフェロビッチと交代したアンテ・レビッチに絶妙のロングパスを供給するなど、ゴールを意識したプレーを随所に見せていた。


「今のチームは失点が少なくなる一方で、得点が取れなくなってきている。やっぱり後ろに人数がかかっている分、前での迫力やコンビネーションが欠けているのは感じます。攻撃はやっぱり僕たち後ろから始まります。自分がドリブルで持ち運んで相手のセンターバックを飛び越して2人を置き去りにするパスを出すとか、相手のディフェンスラインと中盤の間に落とすようなボールを出すとか、多少リスクはあるかもしれないけれど、そういうことができれば、もう少し良い方向に行くのかなと。前(の選手)もすごくプレーしやすくなると思います。


 この試合(ホッフェンハイム戦)は簡単にボールを失う場面が多かった。パスミスも試合を通して3〜4回はあったと思いますし、リベロでやるからにはああいうミスは命取りになる。今回は失点しなかったからよかったけれど、個人的には僕がボールを失ったところが印象に残ってます」と本人は自身のパフォーマンスの物足りなさをストレートに口にした。

「危機感を持ちながら、より良くなるように」

新たな役割に貪欲にトライする長谷部の姿は、代表チームにも良い刺激を与えるはずだ
新たな役割に貪欲にトライする長谷部の姿は、代表チームにも良い刺激を与えるはずだ【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 危機感の背景にあるのは、昨季終盤のギリギリの戦いだ。フランクフルトは確かにあと一歩で2部降格という憂き目に遭っていた。長谷部自身、13−14シーズンにプレーしたニュルンベルクで苦い経験をしているだけに、同じ状況だけは絶対に避けたいという強い思いがあったはずだ。


「今の勝ち点と順位はもちろん非常に良いものではあると思います。ただ、忘れてはいけないのは、僕らは半年前までは降格の危機に瀕していて、残留争いをしていたということ。この半シーズンがよかったからって、またいつそうなるか分からない。そういう危機感を持ちながら今のサッカーをベースに、より良くすることを考えなければいけないんです。


 僕がフランクフルトとの契約延長を決めたのも、このチームでCLやEL(UEFAヨーロッパリーグ)に出たい気持ちがあったから。そういうビジョンがあってここに残っています。この半年でそれが現実的になってきましたが、こうなると相手も自分たちを研究してきます。そういう状況だから、守備の部分だけじゃなく、攻撃の部分でもクオリティーを上げていかなきゃいけない」と彼は高い目標に向かって突き進むと今一度、自らに言い聞かせていた。


 かつてブンデス制覇を成し遂げたヴォルフスブルク時代のように、フランクフルトが頂点に近いところまで上り詰めることができれば、長谷部自身のプレーヤーとしての価値も経験値も、もう一段階上がるはずだ。17年1月には33歳になろうという百戦錬磨のベテランが新たな役割に貪欲にトライし、上を目指し続けることは、代表チームや選手たちにも必ず良い刺激になるだろう。そんな好循環を加速させ、ワールドカップアジア最終予選の後半戦に弾みをつけるためにも、日本のキャプテンには進化のスピードを一気に高めてほしいものである。

元川悦子
元川悦子

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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