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リベロで磨きがかかった長谷部の戦術眼
百戦錬磨のベテランが開拓する新境地

フランクフルトの躍進を支える堅守

フランクフルトの躍進を支える安定した守備。その原動力となっているのが長谷部だ
フランクフルトの躍進を支える安定した守備。その原動力となっているのが長谷部だ【写真:アフロ】

 2016−17シーズンのブンデスリーガは早くも折り返し地点を迎えようとしている。開幕前はリーグ4連覇中のバイエルン・ミュンヘンを軸に、UEFAチャンピオンズリーグ(CL)参戦中のボルシア・ドルトムント、レバークーゼンら有力クラブが首位争いに絡む展開が予想されたが、1部初昇格のライプツィヒがすさまじい快進撃を披露。一時はバイエルンを抜いてトップに立った。昨季2部降格危機に瀕したホッフェンハイムもCL圏内の4位に付ける大躍進を遂げており、上位陣は目下、混とんとした状況が続いている。


 昨季16位に沈み、2部3位のニュルンベルクとの入れ替え戦の末、何とか残留を果たしたフランクフルトも様相が一変している。1部残留へと導いたニコ・コバチ監督体制を継続して迎えた今季は14試合終了時点で7勝5分け2敗と勝ち点26で5位をキープ。さらにリーグ戦8試合無敗という好調ぶりなのだ。


 その最大の要因は守備の安定だろう。昨季は14試合終了時点で22失点を喫していたが、今季は半分の11失点に減少している。得点の方は昨季が18得点、今季が19得点とほぼ同レベルであるだけに、いかに守備を修正した効果が大きいか分かるはずだ。


 堅守の原動力となっているのは、日本代表キャプテン・長谷部誠である。


 開幕当初は本職のボランチでピッチに立っていた長谷部だが、9月20日(以下、現地時間)の第4節インゴルシュタット戦での欠場を機に、10月にかけては出場したりしなかったりと安定せず苦境に陥った。突然の出場機会減少に本人も戸惑いを覚えたに違いない。だが、ニコ・コバチ監督は長谷部を冷遇したわけではなかった。


 ブンデスリーガで200試合以上の出場経験を持つベテランMFのインテリジェンスと戦術眼の高さに着目した指揮官は、21日の第8節ハンブルガーSV戦の後半から長谷部をリベロで起用。続く25日のドイツ杯2回戦・インゴルシュタットとの試合でも同ポジションで起用し手応えを得ると、第9節ボルシア・メンヘングラードバッハ戦からは完全にリベロに定着させたのだ。


 そこからチームは大崩れしなくなり、第10節では今季好調のケルンを零封(1−0)。ピエール・エメリク・オーバメヤンら傑出したアタッカーがズラリと並ぶドルトムントも1失点で抑える(2−1)など守備が目に見えて安定してきた。

リベロでの起用に応えた長谷部

リベロ起用に応えたことで周囲の評価も上がったものの、本人は決して現状に満足していない
リベロ起用に応えたことで周囲の評価も上がったものの、本人は決して現状に満足していない【Getty Images】

 12月9日に行われた第14節、4位に付けるホッフェンハイムとの上位対決でも、長谷部は鋭い読みで相手の攻撃の芽を摘み、危ない場面でも的確なカバーリングでピンチを封じていた。前半14分に相手の右サイド、パベル・カデラベクがフランフルトの左DFヘスス・バジェホの背後を突いてきた場面では、素早い反応で彼に出たボールを巧みにクリア。後半25分にカデラベクが中央突破を仕掛けてきたシーンでも、一瞬の判断でスペースを埋めて決定的な仕事をさせなかった。相手と1対1になる場面は幾度となくあったが、彼は球際の強さと寄せの速さで敵の自由を奪い続けた。


 その一挙手一投足からは、まるで長年リベロとして経験を積み重ねてきた選手のような老かいさを感じさせた。これを受けた日本代表のヴァイッド・ハリルホジッチ監督が3バックの採用と長谷部のリベロ起用というオプションを考え始めたとしても、全くおかしくはないはずだ。


「それはどうなんですかね。まあ、(ハリル)監督が決めることなんで分からないですけどね」と本人は軽く受け流していたが、吉田麻也や森重真人らDF陣が累積警告やけがで欠場することがあれば、本当にトライする可能性もゼロとは言い切れないのだ。


 周囲の評価も日に日に上がっているが、本人は決して現状に満足していないという。


「(自分が)あのポジションをやってから負けていないし、失点もかなり少なくなっているので、監督も変えづらいというのはあると思います。ただ、正直に言えば、中盤よりも後ろで試合に出る方が変な言い方をすると楽です。プレッシャーも全然違いますからね。今はこのポジション(リベロ)をやっていますが、代表ではここでは出ないと思いますし、このポジションに慣れないようにしないといけない。相手のフォーメーションによっては中盤でやる時もありますから、常に頭を使いながらやりたいと思います」と本人はあくまでボランチとしての自分に強いこだわりを持っている様子だった。


 とはいえ、「監督から与えられた役割を確実に遂行してこそ、真のプロフェッショナル」という考え方も彼の中では根強い。だからこそ、長谷部はドイツでの10シーズンで、右サイドハーフ、左右のサイドバック、非常時にはGKに至るまで幅広いポジションを担い、指揮官の要求を高いレベルでこなそうと努力し続けてきた。


 ホッフェンハイム戦でも終盤に右サイドのティモシー・チャンドラーが退場した後、長谷部がその位置に入って穴を埋めた。「これはあくまでイレギュラーな対応」と彼は説明したが、難しい局面を乗り切れる冷静さと対応力を備えていなければ、ニコ・コバチ監督も絶対に抜てきしないだろう。

元川悦子
元川悦子

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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