“順当”なC大阪のJ1復帰とそれぞれの物語 J2・J3漫遊記2016 J1昇格プレーオフ決勝

宇都宮徹壱

パワープレーに活路を見いだすしかなかった岡山

C大阪の決勝ゴールが決まったのは後半7分。ソウザのヘディングの流れから清原が押し込んだ 【宇都宮徹壱】

 決勝の舞台は、約4万8000人収容のヤンマースタジアム長居ではなく、約2万人を収容する球技専用のキンチョウスタジアム。試合開始直前に雨が降り出したが、この施設はメーンスタンドの一部にしか屋根がない。客席のほとんどが、ピンクや白の雨具でパステルカラーに染め上げられる中、岡山のゴール裏は上半身ハダカの若い男性の姿が目立った。かつて、このスタジアムでもプレーしたケンペスと今回の事故の犠牲者たちに黙とうをささげてから、15時37分にキックオフ。

 前半は完全にC大阪のペースであった。左MFの杉本健勇、そして前線の柿谷がアクセントとなってたびたびチャンスを作るが、最もゴールに貪欲だったのはボランチのソウザ。ミドルレンジから前半だけで6本ものシュートを放った。亡くなったシャペコエンセの選手の中には、元チームメートもいたというソウザのアグレッシブな姿勢からは、このゲームに期するものが強く感じられる。対する岡山は、岩政が放った2本のシュートのみ。いずれもセットプレーから、高さと強さを生かしたヘディングシュートである。決定機は極めて限られていたものの、失点ゼロでハーフタイムを迎えることができたのは、岡山にとってプラン通りだったはずだ。

 後半開始早々、岡山は立て続けにチャンスを演出する。後半2分、左サイドからの矢島のパスを受けた三村真がシュート。その2分後、再び左サイドから片山瑛一がクロスを供給して、これに豊川雄太が頭で合わせる。いずれのシュートも枠をとらえたもののキム・ジンヒョンのファインセーブに阻まれてしまった。このピンチをしのいだC大阪は後半7分、ついに待望の先制ゴールを挙げる。丸橋祐介の右からのCKに、ファーサイドでソウザがほぼフリーの状態でヘディング。岡山GK中林洋次がキャッチし損ねたところを、清原翔平が倒れ込みながら左足でゴールに押し込んでネットを揺らす。昨シーズン、その得点能力が評価され、ツエーゲン金沢から今季移籍してきた清原。リーグ序盤戦はチャンスを与えられなかった男が、ついにこの大舞台で結果を残した。

 失点した岡山が昇格するためには、これで2点が必要になった。まだ時間は十分にある。しかしながら組織としても個人としても、できることは極めて限られていた。矢島の縦方向のパスは、依然として相手に脅威を与えていたが、受け手となり得るのが赤嶺真吾1人というのは厳しい。ゲーム終盤には、岩政の頭を狙うパワープレーで活路を見いだそうとするが、引き分けでもいいC大阪はしっかりブロックを作ってこれに対応。土壇場で福岡に同点弾を浴び、J1昇格の道を立たれた昨年のプレーオフ決勝の教訓は、確実に生かされていた。結局、1−0のスコアのままタイムアップ。実に3シーズンぶりとなる、C大阪のJ1復帰が決まった。

岡山の岩政とC大阪の清原、それぞれの想い

J1復帰を果たしたC大阪。プレーオフ優勝チームのJ1残留は今度こそ果たされるのか? 【宇都宮徹壱】

 終わってみれば、C大阪の順当勝ち。ぎりぎり6位で滑り込んだ岡山が、最後の昇格枠を手にするには、まだまだ経験も実力も足りていなかったというのが実際のところであろう。プレーオフの主催者が「天国と地獄」的なドラマを求めていたとしたら、今年の決勝は「不発に終わった」と言わざるを得ない。今大会の一番のドラマは、やはり松本と岡山の準決勝であった。それも新シーズンの到来とともに忘れ去られ、一発逆転の昇格を目指すクラブと残酷なドラマを渇望する人々のためのプレーオフは来年もまた開催されることだろう。

 いずれにせよ今大会のファイナルは、さほどのコントラストが感じられない、何やらぼんやりしたものとなってしまった。あえて明暗を求めるとしたら、それはチームではなく個々の選手に目を向けるべきであろう。ここでは、攻守にわたって存在感を示した岡山の岩政、そして決勝ゴールを挙げたC大阪の清原にフォーカスすることにしたい。キーワードは「古巣」である。

 まずは岩政。記者の1人が「昨日のCSで鹿島は1点取られてから2点を取りましたが」と水を向けると、「1点取られたことは問題ない」とした上で、こう続ける。「前半から何度も相手にリスタートから攻め込まれた。セカンドボールも相手のほうが反応は早かった。松本に対しては上回れたけれど、今日はそれができなかった」。鹿島を退団後、タイでの1シーズンを経てから岡山に移籍して2年。岩政は古巣で学んできた「厳しい日常から生まれる勝負強さ」を、この若いチームに植え付けようと日々努力してきた。このプレーオフ決勝は、2年間の集大成と位置付けていただけに、その喪失感は計り知れない。岡山との契約は今季限り。来季以降の身の振り方は「これから家族と相談します」と語り、ミックスゾーンを後にした。

 一方の清原は、自身が挙げた決勝ゴールについて「今年はこぼれ球やゴールに近いところでしか取れていない。自分らしいといえば自分らしい」と謙虚なコメント。同日開催されたJ2・J3入れ替え戦で、金沢が残留を決めたことについては「決まって良かったです。金沢の結果を知って、いい気分で試合に入ることができました」と、古巣に対する愛情を隠そうとはしなかった。今はなきSAGAWA SHIGA FCの社員選手として、JFLでデビューしたのが2010年。金沢ではJ3とJ2昇格を経験している。そして来季、30歳にしてようやくつかむであろうJ1でのキャリア。およそエリートとは言い難い、むしろ地道であるが夢のあるキャリアアップには、心からのエールを送りたい。

 最後に、プレーオフ優勝チームに対していつも願っていることを、今年も繰り返すことで本稿を締めくくりたい。それは「1年でJ2に出戻りというのは勘弁してほしい」というものである。12年からスタートしたプレーオフだが、昇格1年目に残留を果たしたチームは今のところ皆無である。プレーオフに異議を唱えるファンが、その論拠としているのは、実はその点にあると言っても過言ではない。もっとも、J2よりもJ1暮らしのほうが長いC大阪である。今度こそ、これまでの“悪しき伝統”を打ち破ってくれるものと期待したいところだ。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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