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“順当”なC大阪のJ1復帰とそれぞれの物語
J2・J3漫遊記2016 J1昇格プレーオフ決勝

CSに比べて「納得感」が担保されているプレーオフだが

今年のプレーオフで台風の目となった岡山。決勝に向けてサポーターの士気も高い
今年のプレーオフで台風の目となった岡山。決勝に向けてサポーターの士気も高い【宇都宮徹壱】

「本当は年間1位で臨めればよかったんですけれど、ルールはルール。勝ちは勝ちだと思うので、非常にうれしく思います」


 12月3日に行われたJ1リーグチャンピオンシップ(CS)決勝第2戦。年間勝ち点1位の浦和レッズとのアウェー戦に2−1で逆転勝利し、勝ち点差15の「下克上」を達成した鹿島アントラーズの小笠原満男は、試合後のフラッシュインタビューでこのように語った。もっとも「非常にうれしく思います」という言葉とは裏腹に、その表情に笑みはなかった(さすがに優勝シャーレを掲げた時は和らいだ顔になっていたが)。おそらく、1人のプレーヤーとして「自分が浦和の立場だったら」という思いが、どこかにあったのかもしれない。


 その後のSNSでの反応を見ると、鹿島の勝負強さへの賞賛がある一方、勝ち点74で年間1位の浦和ではなく、勝ち点59の3位だった鹿島が「2016シーズンのチャンピオン」となることに、違和感を覚えるサッカーファンが少なくないことが確認できた。もちろん「ルール」は尊重されるべきだが、ファンの心情は「ルール」とは別のところにある。来季のJ1リーグは1ステージ制に戻るのが規定路線。いずれ2ステージ制の検証も行われるだろうが、収益や入場者数といった「数値」だけでなく、ファンや選手の「心情」というものについても、主催者側はもう少し思いを寄せてほしいところだ。


 さて、CS決勝翌日の12月4日に大阪・長居で行われる、J1昇格プレーオフ(以下、プレーオフ)決勝。J2の3位から6位までが参戦して、最後の昇格枠1を目指すプレーオフは、CSに比べればまだ心情的に「納得感」が担保されているのかもしれない。準決勝は3位対6位、4位対5位で行われ、いずれも上位チームのホームでの一発勝負。引き分けの場合は、上位チームが勝利となる。42試合分の結果が厳然と反映されているという点では、よくできたレギュレーションだと思う。


 しかし今季は、例年といささか様子が違った。2位の清水エスパルスと3位の松本山雅は、勝ち点は同じ84。両者の明暗を分けたのは、18もの得失点差であった。リーグ最終盤で清水に追い抜かれた松本は、そのままプレーオフに回り、勝ち点差19の6位ファジアーノ岡山をホームに迎えた。結果は1−2の敗戦。しかも1−1のアディショナルタイムに、痛恨の逆転ゴールを決められるというオマケ付きであった。もちろん、ルールはルール。しかし松本の関係者やサポーターの心情を思うと、この残酷な結果に「劇的」や「下克上」といった言葉を多用するのがはばかられるのも事実である。

大きなアドバンテージを持つC大阪

先月の飛行機事故で死去したケンペスの献花台には、手を合わせるサポーターが後を絶たない
先月の飛行機事故で死去したケンペスの献花台には、手を合わせるサポーターが後を絶たない【宇都宮徹壱】

 決勝キックオフ3時間前、試合会場に到着。すでに周囲は、ホームのセレッソ大阪とビジターの岡山、両サポーターが入場ゲートの前で長蛇の列を作っていた。ふいにブーケの香りが鼻孔を突いたので振り返ると、白いテントに献花台が設けられてあることに気づいた。ブラジルのシャペコエンセの一員として遠征中、航空機事故に巻き込まれて死去した、元C大阪のケンペスを追悼するためのものだ。12年の開幕から10月までチームの一員だったケンペスは、27試合に出場して7ゴールを挙げている。


 今季のJ2を4位でフィニッシュし、プレーオフ準決勝では京都サンガF.C.に1−1で引き分けに持ち込み、2年連続の決勝進出を果たしたC大阪。このたびのケンペスへの追悼が、彼らに大きなモチベーションを与えることについては論をまたない。もっともC大阪には、それ以外にもさまざまなアドバンテージがあった。準決勝と決勝、2試合続けてホームで戦えること。11月3日のジェフ千葉戦に0−3で敗れたことで、プレーオフに回ることが早々にほぼ確定した(つまり準備期間があった)こと。そして「攻守にバランスをもたらす」(大熊清監督)、柿谷曜一朗がシーズン終盤で復帰したこと。いずれも好材料である。


 一方の岡山については、準決勝で松本に勝利して勢いこそあるものの、相手を上回れるものが何ひとつ見当たらないのが悩ましい。C大阪には現役の日本代表(山口蛍)や韓国代表(キム・ジンヒョン)が名を連ねているが、岡山は皆無。「全国区」と言えるのは、リオデジャネイロ五輪に出場した矢島慎也、そして元日本代表の岩政大樹くらいか(人件費が向こうの3分の1程度なのだから、当然といえば当然だが)。加えて、チームの攻撃の要であり、松本戦で先制ゴールを挙げている押谷祐樹が体調不良のためベンチ入りもしていないのも不安材料だ。


 ちなみに、岡山のC大阪との過去のリーグでの対戦成績は岡山の0勝2分け5敗。実は一度も勝利していない。格下である彼らに利するデータがあるとすれば「プレーオフから昇格しているのは、すべて初出場チームである」とか、「過去に2回、6位のチームが昇格している(12年の大分トリニータと14年のモンテディオ山形)」といったところか。もっとも、そうした「ジンクス」が今回もそのまま当てはまるかは、ボールが転がってみないと分からない。これまで「魔物がすんでいる」と言われてきたプレーオフ。だが昨年、3位のアビスパ福岡が盤石の強さを発揮して優勝してから、少し風向きが変わったような気もする。いかにもやじ馬が喜びそうな「下克上」は、果たして今回のファイナルで起こり得るのだろうか。

宇都宮徹壱
宇都宮徹壱

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著はスポーツナビでの連載をまとめた『J2&J3 フットボール漫遊記』(東邦出版)

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