松本山雅、J1昇格は逃すも攻守で進化 今季の悔しい経験を糧にして飛躍を

元川悦子

運命の歯車を狂わせるきっかけになった町田戦

17戦ぶりの黒星を喫した町田戦で自力昇格の可能性が消滅。一気に窮地に追い込まれた 【(C)J.LEAGUE PHOTOS】

 松本は町田戦から4連勝して、第17節を終えた時点でついに自動昇格圏の2位に浮上。6月12日の岡山戦に敗れて一時的に順位を落としたが、直後のモンテディオ山形戦からギラヴァンツ北九州戦まで5連勝し、2位の座をガッチリ固める。そして7月20日のコンサドーレ札幌戦を落とした後の長崎戦から16戦無敗というすさまじい記録を打ち立てたのだ。

 田中隼磨という精神的支柱が右目の網膜剥離で約3カ月間の長期離脱を強いられ、當間や安藤淳、那須川らが入れ替わるようにけがを繰り返す中、石原崇兆の成長、工藤の復調、パウリーニョと三島康平の途中補強など好材料をうまく生かして戦力を維持。飯田真輝、喜山といった反町体制の絶対的主力も力強い奮闘を続け、2位をキープした状態で11月12日の大一番・町田戦を迎えた。

 この時点で自動昇格は札幌、松本、清水の3チームに絞られていた。2位につけていた松本はこの試合に勝利し、清水が引き分け以下ならJ1昇格が確定する。2年前のJ1初昇格時は王手をかけた直後のアビスパ福岡戦で勝利。難なく関門を突破している。この経験から松本サポーターは町田戦での昇格決定を信じて疑わず、町田陸上競技場に大挙して押し寄せた。

 だが、異様な熱気が逆に足かせとなったのか、松本の選手たちはまるで金縛りにあったように動きが悪い。前半12分に谷澤達也の鋭いドリブルで縦に割って入られると、折り返しに右から飛び込んだ中島裕希が合わせて先制点を奪われる。致命的だったのが、前半アディショナルタイムに仲川輝人に食らった2点目。これも左サイドを谷澤にドリブル突破されたのが発端で、1点目とほぼ同じ形で崩されたのだ。

 町田戦の3バックは右から後藤、飯田、當間の並びだったが、今季は當間か後藤が右に陣取り、真ん中に飯田、左に喜山が入る形で連係を積み重ねてきた。が、11月3日の熊本戦で左サイドの那須川が負傷。反町監督は6日の東京V戦から喜山を左サイドに上げ、右DFが定位置だった當間を左DFに回して対処を試みた。これで東京V戦は乗り切れたが、町田には応戦し切れなかった。「自分と喜山はアドリブをきかせながらやっても機能するけれど、左に慣れていない當間とやるのはやっぱり違う」と飯田も肩を落とした。3バックの配置変更と町田戦前半の2失点が大きなダメージになったのは確かだろう。

 結局、この試合は高崎が後半に1点を返して1−2まで追いすがったが、17戦ぶりの黒星を喫した。札幌と清水が勝利したことで松本は自力昇格の可能性が消滅。一気に窮地に追い込まれた。反町監督も「町田戦に関しては少し未熟な部分が出たのかもしれない」と悔しさを吐露。ここが松本の運命の歯車を狂わせる重要なきっかけになってしまった。

J1に定着できるチームへ

反町監督が続投するか否かはまだ明らかにされていない 【(C)J.LEAGUE PHOTOS】

 1週間後の最終節・横浜FC戦は喜山を左DFに戻して左サイドに飯尾竜太朗を入れたが、この試合もカウンターから早々と失点した。最終的に3−2で勝つには勝ったが、続くプレーオフ準決勝の岡山戦も似たような攻めで押谷に先制された。山雅はもともと先行逃げ切り型。そんな彼らが肝心な終盤3試合で先に失点していたら、落ち着いた試合運びを見せられるはずがない。

 加えて、終盤15分間の課題も最後に出た。今季32失点のうち、この時間帯に喫した失点は8。昨季の19より大幅に改善したものの、10月8日の岡山戦の後半42分に矢島に奪われた同点弾など、勝ち点3を1に減らすミスが目についた。岡山はこの経験があるから、プレーオフ準決勝でも最後まで冷静に試合を運べた部分があるはずだ。

 J1復帰はならなかったが、今季全体を振り返ってみると、山雅は攻守両面で確実に進化した。反町監督も「今日もボールを動かすところ、ボールの流れるルートなどは、今季やってきた成果が出ていた。それはうれしく思う」と27日の試合後に強調したように、その成果として高崎が16点、工藤が11点をマーク。選手個々の長所や特徴を生かしたサッカーで勝利をもぎ取れるようになっていた。

 これまでの武器だったリスタートにも磨きがかかった。守備に関しても連動したプレスからのボール奪取ができている試合が多く、3−0で完勝した10月16日の千葉戦はその象徴と言っていい。それだけ完成度があっただけに、3位に甘んじたのが悔やまれる。

 来季以降、反町監督が続投するか否かはまだ明らかにされていない。仮に監督交代となれば主力流出も予想され、チームの再構築に迫られるだろう。指揮官続投となっても、選手の入れ替えは必至。来季以降はいばらの道を歩むことになりかねない。J2で足踏み状態の続くジェフ千葉や京都サンガF.C.のようになる可能性もゼロではない。ただ、松本には山雅を応援する熱狂的なサポーターがいる。彼らが力強くクラブを支え続ければ、再浮上できる日が必ず訪れるはず。今季の悔しい経験を糧にして、J1に定着できるチームへの飛躍が強く望まれる。

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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