錦織が苦手な質問“何年後までに……” 一直線に信じる世界1位への道
時代の変革期に目指す目標
ATPファイナルズ準決勝ではジョコビッチに完敗。来季も目の前の“目印”にチャレンジしていく 【写真:ロイター/アフロ】
以前、錦織にその“有言実行の訳”を聞いた時、彼は照れくさそうに笑いながら、「基本、自分の理想より低めに言っているので、できないとダメでしょうね」と秘訣(ひけつ)を明かしてくれた。だからこそ彼が近い未来を語る時、それは視界の中にあり、少し手を伸ばせばつかめる距離にある。
「そんなに遠くは見ず、自分のモチベーションになるような目標を立てているのはいつもです」
それが、島根県松江市の実家の塀で壁打ちしていた少年時代から今も変わらぬ、彼の夢へのアプローチ法だ。
「何年後シリーズ」は苦手な錦織も、5週間後に開幕を迎える新たなシーズンの景色は、既に視野に捉えはじめている。
17年のテニス界は、初めてアンディ・マリー(英国)が頂点に立ちスタートを切る。トップ10には錦織より年少のミロシュ・ラオニッチ(カナダ)やドミニク・ティエム(オーストリア)が食い込み、今季シンシナティ・マスターズを制して“現役最年少マスターズ優勝者”となったマリン・チリッチ(クロアチア)も、錦織のすぐ背後の6位につけている。勢力図が徐々に姿を変え、時代の変革期の足音が響く――そのような時勢のなか、必要以上に自分を大きく見せることを好まぬ錦織は、「自分で言うのもなんですが」と前置きした上で、「次に4位、3位に入っていける能力はあると思う」と明言した。
いきなり1位を狙うと言わないのは、彼のイデオロギーを思えば、当然だ。今は5位なのだから、次に立つべきは4位であり、その次に目指すは3位でしかない。
昨日より今日の自分が少しでも先に進むことでしか、子供の頃から夢見た目標に到達できないことを、彼はよく知っている。
そうやって、ここまで長い長い道を踏破してきた、確かな実績があるのだから――。