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ライバルで友人――マリーとジョコビッチ
栄光も重圧も分かち合う二人の主役

ダブルスでペアを組んだ経験も

10年前、18歳だった2006年全豪ではダブルスを組んだマリー(左)とジョコビッチ。ともに戦い、たたえ合い、王者の座を争う良きライバルとなった
10年前、18歳だった2006年全豪ではダブルスを組んだマリー(左)とジョコビッチ。ともに戦い、たたえ合い、王者の座を争う良きライバルとなった【Getty Images】

「まるで、映画のシナリオのようだね」と言って、ノバク・ジョコビッチ(セルビア)は感慨深げな笑みで顔をほころばせた。

 わずか1週間を隔て、セルビアとスコットランドというテニスが盛んとは言い難い地に生まれ育った2人の少年は、12歳の頃に出会い、13歳の時に初めて試合をし、やがて友人となり、ライバルとなり、そして29歳になった今、世界1位の座を懸けてATPツアーファイナルズ決勝戦を戦う――。

 そのような自身とアンディ・マリー(イギリス)の歩みを、ジョコビッチは「長い長い物語だよ。まるでロマンスだ」と冗談めかして振り返った。2人の対戦が決まった日の夜、決勝戦前日の会見でのことである。

 ちなみにジョコビッチは、まだ18歳だった2006年全豪オープンでマリーとダブルスを組んだ時、マリーを追いまわす膨大な数の英国メディアに、驚いたことをよく覚えている。自分と同じ歳の友人が背負っているものの大きさを、この時、ジョコビッチは知ったのだった。


 そのイギリス・ロンドンで行われた決勝の舞台O2アリーナに、世界1位の座を懸けジョコビッチと戦うべくマリーが姿を現した時、マリーを長年撮っているイギリス人カメラマンは「アンディ史上、最大の入場時の歓声だ」と“つぶやいた”。伝統と静寂を重んじる“テニスの聖地”ウィンブルドンとは異なり、このツアーファイナルズのステージはカクテル光線と大音量のBGMに彩られ、きらびやかにショーアップされている。暗闇の中に浮かび上がるコートに両選手が歩みを進めるなか、今季のマリーの輝かしい戦績の数々が読み上げられる。「彼が、現在の世界1位です!」と扇情的なアナウンスが流れると、1万8千人の観客は再び大歓声をあげた。

勢いが止まったジョコビッチ 世界1位を追い掛けたマリー

ファイナルズ決勝、ポイントを奪い雄たけびを挙げるマリー
ファイナルズ決勝、ポイントを奪い雄たけびを挙げるマリー【写真:ロイター/アフロ】

「マリーが、本気で年内の世界1位を狙っているようだ」


 関係者たちの間でそうささやかれるようになったのは、今年8月、リオデジャネイロ五輪翌週のシンシナティ・マスターズ(ウェスタン&サザン・オープン)の頃だった。五輪でまさかの初戦敗退を喫したジョコビッチは同大会を欠場し、対するマリーは、五輪で最終日まで戦う過酷なスケジュールながらも、イワン・レンドルコーチが激しくげきを飛ばすなか、疲れた身体にムチ打つように練習している。「どうやらマリーが棄権するらしい」、3回戦の前にはそんなうわさも流れたが、実際には彼はコートに立ち、結果的に準優勝し、ジョコビッチとのポイント差をまた詰めた。この大会後にマリーは、実は肩に痛みを抱えながらの戦いであり、棄権も考えたと明かしている。しかし医師たちと相談した結果、「痛みは炎症であり、多少は無理しても深刻なケガにつながることはない」と判断し、継続を決意する。6月の全仏オープンを制し、“キャリアグランドスラム”を成して以来モチベーションが上がらぬ様子のジョコビッチの背を、マリーは必死に追い掛けた。


 驚異のラストスパートは、全米オープン後の10月上旬から始まる。チャイナオープンを皮切りに、上海マスターズ、続くウィーン大会(エルステバンク・オープン)も制して3大会連続優勝。このマリーの快進撃により、レギュラーシーズン最終戦となるパリ・マスターズ(BNPパリバ・マスターズ)の結果いかんで、1位逆転の可能性が出た。

 果たしてパリ・マスターズでは、ジョコビッチが準々決勝で敗れ、一方のマリーは優勝し文句なしの頂点登頂を果たす。1973年に現行のランキングシステムが導入されて以来、イギリス人の世界1位は初。29歳5カ月と23日の戴冠は、史上2番目の年長記録でもあった。


 ただしマリーが連勝街道を走ったその間、ジョコビッチとの直接対決はなく、だからこそ両雄の決戦を望む声は日増しに高まっていった。両者が最後に対戦したのは、全仏オープン決勝戦。この時、ジョコビッチに敗れたマリーは「負けた気分は最悪だけれど、このような歴史的瞬間に立ち会えたことを光栄に思う。おめでとう、ノバク」と表彰式で勝者をたたえた。

 その日から、5カ月――。立場を入れ変えた新世界1位と元世界1位は、年間1位の座をかけ、ツアーファイナルズ決勝戦で相まみえる。2016年シーズンの最後を飾る試合として、これ以上ないお膳立てが整った。

内田暁

テニス雑誌『スマッシュ』などのメディアに執筆するフリーライター。2006年頃からグランドスラム等の主要大会の取材を始め、08年デルレイビーチ国際選手権での錦織圭ツアー初優勝にも立ち合う。近著に、錦織圭の幼少期からの足跡を綴ったノンフィクション『錦織圭 リターンゲーム』(学研プラス)や、アスリートの肉体及び精神の動きを神経科学(脳科学)の知見から解説する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。京都在住。

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