屈辱にまみれたソフトバンクに充実の秋 基礎練習を重視したキャンプの意図

田尻耕太郎

最終日の走力テストで大きな成長

秋季キャンプを完走した柳田。「バリきつかった」と振り返りながらも「これで来季は打ちますよ」と手応えを感じていた 【写真は共同】

 だが、初日の地獄絵図だ。早々に福岡に送り返される選手も現れ、大丈夫なのかと心配になった。果たして迎えた最終クール。集大成として日々メニューを変えながら走力テストが行われた。持久力系では若手外野手の上林誠知がチーム1位を記録し、50メートル走では23歳以下ワールドカップでMVPに輝いた真砂勇介が5秒64という驚異的数値をマークした。

 1000メートル走では来季の中継ぎ定着が期待される岡本健が3分8秒というマラソン選手並みのスピードで走りきり、12分間走では多くの選手が目安の2850メートルをクリア。特に捕手陣6名全員が3000メートルの大台をクリアした。「チーム一体力がない」と言われていた育成の樋越優一も必死に足を動かした。これには工藤監督も驚いた様子で「正直、樋越があそこまで変わるとは思わなかった。自分の育成理論を改めて考えさせられるほどの成長ぶりだった」と大きな目を丸くした。

やる気に満ちた柳田、納得の高橋

 キャンプをやり切った柳田は「免除とかない。全部やるのはフツーでしょ」ときっぱり。「バリきつかった。でも、ももが太くなったっス」と自慢げだ。近くにいたコーチ陣からも「本当だな」と声が上がった。

「これで来季打ちますよ。去年の秋は右ひじの手術もあって、オフはリハビリの時間が多かった。今年は筋量が減ってましたもん。これで来年打ったら、次の秋もまた走りますよ」

 背番号9の表情はとにかくやる気に満ちていた。

 来季は1軍デビューの期待が高まる高橋純平はシート打撃で146キロを計測してアピールしたが、それ以上にランニングメニューで成果を上げられたことに納得した様子だった。

「Yo−Yoテスト(直線20メートルを休むことなく持ち時間内に往復し、一定数を走るとそれが短くなっていく。3000メートルをクリアすれば優秀とされる)をシーズン中もやりましたが、1600メートルほどでダメだった。今回は2100メートルを越えました。まだ全然ダメですが、少し走れる体力がついてきた。そういえば、ジーパンも買い直さないと履けなくなっちゃいましたし」

工藤監督の総括は「よくやってくれた」

 キャンプ最終日、工藤監督は言った。

「つらい練習に選手たちはよく耐えてくれたと思います。自分の身にしてくれて、いいキャンプになりました。走るというのはすべてのスポーツにおいて基本となります。苦しい時、つらい時も我慢して走るということが彼らの成長に一番大切なことであり、肉体的にも精神的にも成長するという信念からやってもらった。それに応えてくれた選手にありがとう、よくやってくれたという言葉を送りたいです」

 最終日のランニングメニューは3人一組のリレーだった。豪雨の中、ひとり70メートル10本を計6セット走りきった。初日を上回る4.2キロダッシュである。選手たちは苦悶の表情こそ浮かべたが、足元をグラつかせるものは誰もいなかった。

「初日の頃ならば、みんなもっとヘコたれていただろうね。変わったよ、アイツら」

 工藤監督をはじめコーチ陣は全員、傘もささずにずぶ濡れになって見つめていた。キャンプを打ち上げて、福岡に戻る準備が整った頃には快晴の空。充実の表情で球場を後にする選手たちを眩しい光が照らしていた。

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著者プロフィール

 1978年8月18日生まれ。熊本県出身。法政大学在学時に「スポーツ法政新聞」に所属しマスコミの世界を志す。2002年卒業と同時に、オフィシャル球団誌『月刊ホークス』の編集記者に。2004年8月独立。その後もホークスを中心に九州・福岡を拠点に活動し、『週刊ベースボール』(ベースボールマガジン社)『週刊現代』(講談社)『スポルティーバ』(集英社)などのメディア媒体に寄稿するほか、福岡ソフトバンクホークス・オフィシャルメディアともライター契約している。2011年に川崎宗則選手のホークス時代の軌跡をつづった『チェ スト〜Kawasaki Style Best』を出版。また、毎年1月には多くのプロ野球選手、ソフトボールの上野由岐子投手、格闘家、ゴルファーらが参加する自主トレのサポートをライフワークで行っている。

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