自動昇格とプレーオフのはざまで J2最終節での松本山雅FCの戦い
高崎の2ゴールと三島の決勝ゴールで勝利したが
横浜FCとの最終節は、激しい点の奪い合いから3−2で松本が勝利。しかし、J1自動昇格はならず 【宇都宮徹壱】
松本は1点ビハインドにもかかわらず、しっかりパスをつなぎながら冷静にゲームを進め、次第にチャンスを演出するようになる。特にセンターFWの高崎は、相手のマンマークを受けながらも2本の惜しいシュートを放った。そうした積極的な姿勢が実ったのが、前半アディショナルタイム。ゴール前の混戦から、ペナルティーエリア内での横浜FCのハンドを主審が認め、松本にPKのチャンスが与えられる。これを高崎が冷静にゴール左に決めて、前半は1−1で終了する。他会場の途中経過を確認すると、札幌対金沢は0−0、徳島対清水は1−1。現状のままでは、松本は3位のままプレーオフに回ることになる。
エンドが替わっても、高崎の躍動は続いた。後半5分、左サイドで工藤からの山なりのパスを受けると、バウンドを生かしながら相手DFを振り切り、中央に切れ込んで右足できれいに流し込む。逆転に成功した松本だったが、その4分後にはCKからDF西河翔吾にヘディングシュートを決められ、再び同点に。札幌の試合は0−0のまま動かず。一方、徳島では後半28分に清水が追加点を挙げて2−1でリードしていた。この試合展開では、松本の逆転自動昇格は厳しそうだ。おそらくこの時点で反町監督は、来週のプレーオフにつながる采配に頭を切り替えたのではないか。
そして迎えた後半37分、この試合3度目の歓喜でアルウィンのスタンドが揺れる。左CKのキッカーは途中出場の宮阪政樹。これにニアから頭で合せたのは、これまた途中出場の三島康平。しかもピッチに送り出されて2分後、ファーストシュートがそのまま勝ち越しゴールとなった。今季途中、水戸ホーリーホックから移籍してきた三島は、これが15試合目の出場であったが、スタメンはわずか1試合。それでも、これが今季3ゴール目である。短い出場時間でも、しっかり結果を残す三島については、反町監督も「現場としてもうれしい」と手応えを感じている様子。結局、ファイナルスコア3−2でホームの松本が今季最終節を劇的な勝利で飾った。
反町監督が痛感した「勝ち点1の重み」
試合後にあいさつする松本の反町康治監督。すでにプレーオフに気持ちを切り替えている様子だ 【宇都宮徹壱】
42節を終えて、24勝12分け6敗、勝ち点84、得失点差+30の3位。敗戦の数と失点32は、いずれもリーグ最少である。そう、プレーオフに回ることにはなったとはいえ、それでも十分に誇ってよい結果だったと言えよう。ちなみに、2年前に松本が2位で自動昇格した時の成績は、24勝11分け7敗、勝ち点83、得失点差+30。実は今季とほとんど変わらない。試合後の会見場に臨んだ反町監督が、さばさばした表情をしていたのも「ここまでやっても届かなかったか」という諦念ゆえであろう。指揮官は「一緒に(今季のリーグ戦を)戦った札幌と清水におめでとうといいたい」と述べてから、こう続けた。
「あの時、ああすればという勝ち点1の重みは十分に感じています。ただ、これは42試合通してやってきた結果であり、それを真摯(しんし)に受け止めて次へのエネルギーにしていかなければならない。試合に勝って、景気のいい話ができないのは残念ですが、今日はこれまでで一番(多くの)お客さんが入ったのはうれしいです。プレーオフも、それこそ『デッド・オア・アライブ(生きるか死ぬか)』になるので、皆さんにわれわれの『アライブ』を見ていただければ。今日のゲームのように、最終的に勝ち星が取れるようにやっていきたいです」
プレーオフ準決勝の相手は、町田の追撃をかわして6位の座を守った岡山に決まった(もう1試合はC大阪対京都)。岡山との過去の対戦成績は、2勝1分け4敗と分が悪い。とはいえ相手もプレーオフ出場は今回が初めてだし、勝ち点差19という実力差は当然ながらゲームにも反映されることだろう。加えてホームのアルウィンで戦えることも、松本には大きなアドバンテージだ。しかし個人的に重視したいのが、2位から3位に落ちてもすぐに切り替えられるリバウンドメンタリティー。12年の3位京都(プレーオフ準決勝で敗退)と15年の3位アビスパ福岡(プレーオフ優勝)の明暗を分けたのは、まさにその一点に尽きると思う。
少なくとも私の周囲の松本サポーターは、アルウィンであと2試合を楽しめる(かもしれない)ことに、極めてポジティブであった。「天国と地獄」というフレーズが定着した感のあるJ1昇格プレーオフ。しかし結局のところ、この厳しいレギュレーションを心底楽しむことができた者にのみ、J1への道がひらかれるはずだ。