自動昇格とプレーオフのはざまで J2最終節での松本山雅FCの戦い

宇都宮徹壱

高崎の2ゴールと三島の決勝ゴールで勝利したが

横浜FCとの最終節は、激しい点の奪い合いから3−2で松本が勝利。しかし、J1自動昇格はならず 【宇都宮徹壱】

 先制したのはアウェーの横浜FC。前半9分、イバが落としたボールに野村直輝がスルーパスを送り、これを野崎陽介が左足を振り抜いてネットを揺らす。この手痛い失点について反町監督は「(選手に)硬さはあったかもしれない」としながらも、「それでもウチは2点取れる」と考えていたことも明かしている。「相手のCB(センターバック)が高崎をマンマークしていたので、バランスが悪い。そこを工藤(浩平)とか鐡戸(裕史)がボランチの背後で(ボールを)もらえれば」必ずチャンスはある、ということである。

 松本は1点ビハインドにもかかわらず、しっかりパスをつなぎながら冷静にゲームを進め、次第にチャンスを演出するようになる。特にセンターFWの高崎は、相手のマンマークを受けながらも2本の惜しいシュートを放った。そうした積極的な姿勢が実ったのが、前半アディショナルタイム。ゴール前の混戦から、ペナルティーエリア内での横浜FCのハンドを主審が認め、松本にPKのチャンスが与えられる。これを高崎が冷静にゴール左に決めて、前半は1−1で終了する。他会場の途中経過を確認すると、札幌対金沢は0−0、徳島対清水は1−1。現状のままでは、松本は3位のままプレーオフに回ることになる。

 エンドが替わっても、高崎の躍動は続いた。後半5分、左サイドで工藤からの山なりのパスを受けると、バウンドを生かしながら相手DFを振り切り、中央に切れ込んで右足できれいに流し込む。逆転に成功した松本だったが、その4分後にはCKからDF西河翔吾にヘディングシュートを決められ、再び同点に。札幌の試合は0−0のまま動かず。一方、徳島では後半28分に清水が追加点を挙げて2−1でリードしていた。この試合展開では、松本の逆転自動昇格は厳しそうだ。おそらくこの時点で反町監督は、来週のプレーオフにつながる采配に頭を切り替えたのではないか。

 そして迎えた後半37分、この試合3度目の歓喜でアルウィンのスタンドが揺れる。左CKのキッカーは途中出場の宮阪政樹。これにニアから頭で合せたのは、これまた途中出場の三島康平。しかもピッチに送り出されて2分後、ファーストシュートがそのまま勝ち越しゴールとなった。今季途中、水戸ホーリーホックから移籍してきた三島は、これが15試合目の出場であったが、スタメンはわずか1試合。それでも、これが今季3ゴール目である。短い出場時間でも、しっかり結果を残す三島については、反町監督も「現場としてもうれしい」と手応えを感じている様子。結局、ファイナルスコア3−2でホームの松本が今季最終節を劇的な勝利で飾った。

反町監督が痛感した「勝ち点1の重み」

試合後にあいさつする松本の反町康治監督。すでにプレーオフに気持ちを切り替えている様子だ 【宇都宮徹壱】

 試合終了後、松本の選手たちの表情には笑顔がなかった。彼らは他会場の途中経過を知らされることなく、目前の相手に勝利することのみを考えてプレーを続けていた。それでも、何となくスタジアムの空気を察したのであろう。会場がざわつく中、大型スクリーンに他会場の結果が映し出される。札幌対金沢は0−0、徳島対清水は1−2。スタンドからは「ああー」という嘆息が漏れるが、「この結果、松本山雅FCは3位となりました」というアナウンスが流れると、すぐさま温かい拍手が沸き起こった。

 42節を終えて、24勝12分け6敗、勝ち点84、得失点差+30の3位。敗戦の数と失点32は、いずれもリーグ最少である。そう、プレーオフに回ることにはなったとはいえ、それでも十分に誇ってよい結果だったと言えよう。ちなみに、2年前に松本が2位で自動昇格した時の成績は、24勝11分け7敗、勝ち点83、得失点差+30。実は今季とほとんど変わらない。試合後の会見場に臨んだ反町監督が、さばさばした表情をしていたのも「ここまでやっても届かなかったか」という諦念ゆえであろう。指揮官は「一緒に(今季のリーグ戦を)戦った札幌と清水におめでとうといいたい」と述べてから、こう続けた。

「あの時、ああすればという勝ち点1の重みは十分に感じています。ただ、これは42試合通してやってきた結果であり、それを真摯(しんし)に受け止めて次へのエネルギーにしていかなければならない。試合に勝って、景気のいい話ができないのは残念ですが、今日はこれまでで一番(多くの)お客さんが入ったのはうれしいです。プレーオフも、それこそ『デッド・オア・アライブ(生きるか死ぬか)』になるので、皆さんにわれわれの『アライブ』を見ていただければ。今日のゲームのように、最終的に勝ち星が取れるようにやっていきたいです」

 プレーオフ準決勝の相手は、町田の追撃をかわして6位の座を守った岡山に決まった(もう1試合はC大阪対京都)。岡山との過去の対戦成績は、2勝1分け4敗と分が悪い。とはいえ相手もプレーオフ出場は今回が初めてだし、勝ち点差19という実力差は当然ながらゲームにも反映されることだろう。加えてホームのアルウィンで戦えることも、松本には大きなアドバンテージだ。しかし個人的に重視したいのが、2位から3位に落ちてもすぐに切り替えられるリバウンドメンタリティー。12年の3位京都(プレーオフ準決勝で敗退)と15年の3位アビスパ福岡(プレーオフ優勝)の明暗を分けたのは、まさにその一点に尽きると思う。

 少なくとも私の周囲の松本サポーターは、アルウィンであと2試合を楽しめる(かもしれない)ことに、極めてポジティブであった。「天国と地獄」というフレーズが定着した感のあるJ1昇格プレーオフ。しかし結局のところ、この厳しいレギュレーションを心底楽しむことができた者にのみ、J1への道がひらかれるはずだ。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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