代表司令塔争い「一歩リード」の清武 定位置死守へ、クラブでの出場機会増を

元川悦子

以前からの課題だった得点力も改善

清武(左)は課題だった得点力も改善し、香川(右)以上に存在感を示す司令塔になった 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 2011年8月の日韓戦でA代表デビューを飾ってから約5年が経過した。清武はこの11月の2連戦で、長年背中を追いかけ続けてきた香川から、ついに司令塔の座を奪う形になった。もちろん競争はこれからも続くだろうが、サウジ戦での貢献度の高さを指揮官も大いに評価しており、現在は一歩リードの情勢と見るべきかもしれない。

 アルベルト・ザッケローニ、ハビエル・アギーレ監督時代の彼は「テクニックもパスセンスもピカイチだが、得点力に課題を抱える司令塔」という評価が根強かった。セレッソ大阪のレジェンドである森島寛晃(現同クラブ強化担当)も「真司にあってキヨにないのはゴール」という言葉を残しており、そこが清武の大きな足枷になっていた。

 しかし、16年の代表戦における清武の通算ゴール数は4。これは年間最多5得点を挙げた原口に次ぐ数字である。ライバルの香川も4ゴールを記録しているものの、最終予選での得点はゼロ。「最終予選では決して結果を残している立場ではない」と香川本人も自身の貢献度の低さを認めており、サブに甘んじるのもやむを得ないと考えている様子だ。

 得点力の部分で香川と肩を並べた今、清武はライバル以上に日本代表で存在感を示す司令塔になったと言っても過言ではない。セビージャで左右のサイドやインサイドハーフをやっているように、彼は2列目ならどこでもこなせるユーティリティー性を持っている。サウジ戦でも右サイドの久保、本田が中に絞った時に外に流れるといった動きはお手のものだった。原口がヘルタ・ベルリンで試合中に頻繁に左右のサイドを変えていることを考えると、清武と臨機応変にポジションチェンジをすることも可能だ。こうしたポジショニングの柔軟性や多彩さは、もともと真ん中のスペシャリストである香川にない点だろう。そういう意味でも、使い勝手の良い選手なのは間違いない。

 10月6日のイラク戦(2−1)で山口蛍の劇的決勝弾につながったCKに象徴されるように、リスタートの精度の高さという絶対的武器もある。本田のキックの威力が年々低下している今、FKから直接ゴールを狙える日本代表選手は清武くらいしかいない。「やはりキヨはキックの精度であったり、アシストする能力が本当に高いなとあらためて感じた」とオマーン戦後、香川も素直に賞賛していたほどだ。

 清武自身は「真司君からポジションを奪ったという意識はあまりないです。今日は誰が出ても勝たなければいけない試合でしたし、チーム一丸となって、本当に全員で勝ち取った勝ち点3だと思うので、今年最後の締めくくりとしてはすごく良かった」とフォア・ザ・チーム精神を前面に押し出したが、この試合だけでなく、1年間を通した代表活動で確固たる自信を手にしたのは事実だろう。

新天地ではデビュー戦で1G1Aと好発進したが……

新天地ではデビュー戦での活躍以降、ピッチに立つ機会が激減しているのが現状だ 【写真:ムツ・カワモリ/アフロ】

 清武を筆頭に、原口、大迫、山口といったロンドン世代以下の面々が台頭し、攻撃の選手層を厚くしたのはハリルホジッチ監督、そして日本サッカー界にとっても大きな収穫だ。

 先に少し触れた得点についても、11年以降の過去5年間は本田・岡崎・香川が日本代表の年間総得点の50%前後を占めていたが、今年は本田と岡崎が2点ずつ、香川が4得点と、全10試合で合計28点(オウンゴールはのぞく)と30%弱にとどまっている。それ以外の攻撃陣では、原口や清武、大迫、浅野といった20代半ば、もしくはそれ以下の選手たちが奪っている。原口が頭ひとつ抜けたエースになりつつあるが、新たな得点源が次々と出てきたのは非常に前向きな要素だ。清武という名パサーがいるからこそ、こうしたアタッカー人がゴールを重ねられる部分は少なからずあるはずだ。

 14年のW杯ブラジル大会でコロンビア戦(1−4)の終盤、85分からの出場にとどまった後、「次のロシア(W杯)では長谷部さんみたいにキャプテンマークを巻いてピッチに立ちたい」と熱い思いを吐露した清武。今年のパフォーマンスによって、理想に一歩近づいたと言っていい。その流れを加速させるためにも、所属チームであるセビージャでの立ち位置を改善することが重要になる。

 今夏に移籍した新天地では、8月20日(現地時間)のリーガ・エスパニョーラ開幕節、エスパニョール戦で1ゴール1アシストと好発進を見せた清武だったが、その後のサミル・ナスリの加入、けがが癒えたガンソの復調などで徐々に出番が減り、10月の国際マッチデーからの1カ月間は11月2日のチャンピオンズリーグ、ディナモ・ザグレブ戦の後半30分以降しか、ピッチに立てていない。

 今回はサウジ戦の前にオマーン戦が行われたことで、ハリルホジッチ監督は彼の状態をしっかり見極めてから大一番に送り出すことができたが、3月のアウェーでのUAE戦はそうはいかない。セビージャでベンチやベンチ外が続けば、コンディションの低下は避けられないし、今回勝ち取った信頼を失ってしまうことにもなりかねない。「これから4カ月くらい代表の活動がないわけですから、今回の選手起用は『各選手が試合に出てコンディションを上げなければ監督は試合に出さないよ』というメッセージになったと思う」と長谷部も強調したとおり、清武には是が非でもクラブでの出場機会を増やすことが必要だ。

 ただ、ホルヘ・サンパオリ監督がスペイン語を話せない清武を使いづらく感じているという見方もあり、現状はやはり険しい。12月の前半戦終了時点で出場の見通しが立たないのなら、出番のありそうなクラブにレンタル移籍することも視野に入れた方がいいのかもしれない。27歳という円熟期を決して無駄にせず、日本代表にとってもプラスになるような最善の道を、清武にはしっかりと選んでほしいものである。

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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