代表司令塔争い「一歩リード」の清武 定位置死守へ、クラブでの出場機会増を

元川悦子

大一番のサウジ戦でもチームを力強くけん引

大一番のサウジ戦でも貴重なPKを決め、チームを力強くけん引した清武 【写真:田村翔/アフロスポーツ】

「試合前に『今日は俺らが頑張らないとダメだね』という話を、キヨ(清武弘嗣)君と2人でしたんです」

 ワールドカップ(W杯)アジア最終予選の天王山と位置付けられた15日のサウジアラビア戦において、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督は本田圭佑、岡崎慎司、香川真司という攻撃の3枚看板をそろって先発から外すという重大な決断を下した。その決断を受けて、先発1トップに抜てきされた大迫勇也は、同じロンドン五輪世代の司令塔である清武とこう会話をかわしたという。

 清武自身も「自分たちがやらないといけない」という強い意気込みで埼玉スタジアム2002のピッチに立った。その気迫は序盤から色濃く感じられた。開始早々の2分、背番号13を付けた男はいきなり遠目からファーストシュートを放ち、攻撃陣に活力を与える。前半20分には、原口元気のドリブルからのパス、大迫の反転シュートの起点となるパスを見せ、その2分後には久保裕也の決定機につながるパスを酒井宏樹に出すなど、大半のチャンスに絡んでいく。

 11日のオマーン戦に4−0で勝利した後、ボランチの山口蛍が「攻撃の起点は間違いなくキヨ君だった」と振り返ったとおり、清武はこの日も攻めのスイッチ役を確実にこなし、チームを力強くけん引した。

 迎えた前半43分、清武は右サイドの久保裕也に展開。そのリターンパスがDFに当たって跳ね返ったところに自ら反応し、ペナルティーエリア内で思い切って右足を振り抜いた。次の瞬間、相手ボランチのアブドゥルマレク・アルハイブリ(11番)がハンドを犯す。シンガポール人主審はPKを宣告。サウジの選手たちは不満を露わにし、一触即発のムードが漂った。清武はその様子を一瞥(いちべつ)しながら、決して冷静さを失うことなくゴール前へ歩み出た。そしてGKモハンメド・アルオワイスの位置をしっかり見ながら右足を一閃。ゴール左隅にシュートを蹴り込み、値千金の先制弾をたたき出した。

「圭佑君が『(ゴールを)決めることによって自信になってくる』と言ってくれましたし、この1点は自分にとってすごく大きな1点かなと思います」と彼はベンチで見守る本田の教えを頭に刻み込み、チームに落ち着きをもたらす重要な仕事を果たした。

「これが良いバリエーションになれば」

「これが良いバリエーションになればいい」と清武はロンドン世代らが残したインパクトに納得の表情を浮かべた 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 後半には開始早々の5分に左足首を痛めるアクシデントに見舞われながら、清武は香川と交代する19分までプレーした。山口蛍のインターセプトから縦パスを大迫に通してドリブルシュートに持ち込ませた16分の得点機を筆頭に、前半と変わらぬ輝きを放った。

 早い時間帯の交代について、ハリルホジッチ監督は「前もって決めた予定でもあるし、けがもあった」と説明したが、彼がピッチから去った後、日本は前線で思うようにタメを作れず、リズムもやや停滞した。だが、本田、長友佑都、香川らがうまく絡んで原口の2点目をお膳立てし、終盤に1点を失いながらも総力戦で勝ち点3をもぎ取った。

「本当にチーム全員で戦うべきものだとあらためて感じた試合でした」と清武は神妙な面持ちで語りつつ、「若いメンバーが前線にいるということで、緊張せず、形にとらわれ過ぎずに自由にやろうと話していた。裕也も良い動きをたくさんしていましたし、元気もまた点を決めて、サコ(大迫)のところでも本当にうまくボールが収まった。これが良いバリエーションになればいいと思います」と自分たち若い世代が残したインパクトに納得の表情を浮かべていた。

「今日はゲーム内容も非常に良かったですし、ずっとメンバーも変わらずやっていたので、そういうところに新しい風が入ってきたことはすごくポジティブに捉えています」とキャプテンの長谷部も前向きにコメントしており、ロンドン世代の攻撃リーダーが果たした役割は非常に大きかった。

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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